第67話 水竜ふたたび

 ネイサン村を襲い、村人たちを拘束している謎の武装集団。

 その身なりから、恐らくどこかの国の騎士団というわけではなく、何者かに雇われた傭兵である線が濃厚だ。


 しかし……あんな集団、ゲームにいたかな?

 もちろん、この世界で人々が普通に暮らしているとなったら、ゲームのプログラムにはない組織が誕生していたり、不穏な事件が起きていても何ら不思議ではない。彼らもきっとその一端なのだろう。はた迷惑ではあるが。


 ここで俺たちが突っ込んでいき、武力で制圧ということもできなくはないだろう。

 ただ、それだと村人たちを人質に取られる可能性があるため、ある作戦を立てた。


 その中枢を担うのはドラゴン形態のシモーネだ。


「頼んだぞ、シモーネ」

「わ、分かりました」


 気弱なシモーネには酷な作戦かもしれないが……村人たちを救うため、そしてグレゴリーさんたちを救うため、ここは頑張ってもらうしかない。


「い、いきます!」


 シモーネは気合を入れてドラゴンへと変身。

 すると、


「なっ!? ドラゴンだと!?」


 なんの前触れもなく突然姿を現したドラゴンに、傭兵たちは慌てふためく。


「ド、ドラゴンがいるなんて聞いていないぞ!」

「ど、どうしますか!?」

「えぇい! 攻撃だ!」


 傭兵たちは手にした武器で果敢にシモーネへ突撃してくるが、



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 

 シモーネ渾身の咆哮により、彼らの闘争心は彼方へと飛んでいった。


「ひいっ!?」

「む、無理だ! 勝てるわけねぇ!」

「金は欲しいが、食い殺されるなんて御免だぜ!」

「俺は逃げるぜ!」


 傭兵たちは武器を投げ捨て、その場から逃走を始める。所詮は志などない、金で雇われた身――勝てる見込みがないと分かれば、即座に逃げだすと踏んだが、その予想は見事的中したようだ。


「ぐぬぬ……腰抜けどもめ……」

「さすがにドラゴンを相手にするのは無理ですよ!」

「だが、このまま引き下がるわけには!」

「どうせヤツが他の村人を食い殺しますよ! 連中は動きを拘束してありますし、そもそも武器さえ持っていないんですから!」

「そ、それもそうだな……」


 手下に説得される形で、リーダー格の大男も退散していく。

 連中が小さくなっていく中、トドメとばかりにシモーネはもう一度天に向かって全力で吠える。

 ドラゴン形態だから迫力満点だが……人間形態だと全然そんなことないんだろうな。必死に大きな声を出そうと頑張っている姿が目に浮かぶ。


 と、それより、


「もういいぞ、シモーネ」


 とりあえず、危機的状況は回避できたようなので、ネイサン村の人々を救うため物陰から出る。


「き、君たちは……」


 そう声をかけてきたのは傭兵たちに食ってかかっていった若い男性だった。

 ヤツらと同じく、突然現れたドラゴン(シモーネ)の姿に怯えていたが、人間である俺たちを発見した途端ポカンと口を開けて茫然としている。


「安心してください。俺たちはみなさんを助けにきたんです」

「た、助けに? じゃ、じゃあ、このドラゴンは……」

「俺たちの仲間ですよ」


 縛られている縄を持ってきていたナイフで切りながら状況を説明し、俺たちの目的を告げる。

 それから、各小屋に閉じ込められていた村人たちを救出していった。

 さて、何が起きたのか……その全容を教えてもらうとしよう。

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