第66話 危機的状況
身を隠しながら、俺たちは不審な男たちへと近づいていく。
やがて、会話の内容が漏れ聞こえてきた。
「村人はあれで全員か?」
「えぇ」
「例の連中はどうした?」
「すでに十名以上の捜索隊があとを追っています。心配せずともすぐに捕まりますよ」
……どうやら、村の人たちはこいつらに捕まっているらしい。例の連中というのは逃げだした者のことだろうか。あと、男たちは揃いの服装ってわけじゃないから、規律ある他国の騎士団ってわけじゃなさそうだ。もしかしたら、何者かに雇われた傭兵?
でも、だったらなんのためにこの村を襲撃したんだ?
失礼を承知で言うなら――金目当ての犯行にしては標的がおかしい。ここは農業で栄えた町ではあるが、村民の生活水準はお世辞にも裕福とは言えない。金に困っているわけじゃないんだろうけど、リスクを冒してまで制圧するほどではないと思う。
そう考えると、やはりバックには雇い主がいると見た方がいいだろう。
問題はその雇い主の狙いだ。
なぜ、ネイサン村を制圧させたのか……一体、何が目的だっていうんだ?
「そろそろ戻るぞ」
「「はっ!」」
リーダーと思われる年長の男が声をかけ、彼らはどこかへと歩いていく。
もしかしたら、捕らえられている村人たちの居場所が分かるかもしれない――そう踏んだ俺たちは、こっそりそのあとをつけた。
たどり着いたのは畑近くにある広場。
ここにはそれぞれの農家が農具などを保管しておく小屋が点在しているのだが、その一角に武装した男たちが集まっている。数は七人。そこへ、さっき畑で目撃した三人が合わさって計十人となる。
俺たちは数ある小屋の中から声が聞こえるギリギリの距離の場所を選び、物陰から様子をうかがうことにした。
男たちの中で、ひと際強烈なオーラを放っているスキンヘッドの偉丈夫――恐らく、あの男がまとめ役なのだろう。
「遅かったな。逃げだした連中はどうした?」
「今、追っている最中でして……」
「そうか。ならば仕方がない。まあ、ライマル商会の連中が乗り込んできそうになったのは想定外だったが……この村から離れているというのであれば作戦を実行に移しても問題はないだろう」
そうか。
終われているのはセルヒオやグレゴリーさんたちだったのか。
「面倒な邪魔が入る前に片付ける。――おい」
リーダー格の男はそう言って視線を別の部下へと移す。それに気づいた者たちはそそくさと何かの準備を始めるため小屋の中へ。すると、
「やめろ!」
突然、小屋からひとりの若い男性が飛びだしてきた。
格好からして、ネイサン村の村民と思われる。
「なんだってこんなことをするんだ!」
「さあて、ね。そこまでは把握してねぇな。俺たちはただこの村の畑をすべて燃やすよう指示を受けただけだ」
その言葉を聞いた時、全員が思わず声を出しそうになったが、お互いがお互いの口を手でおさえ、なんとか耐える。
「燃やす!? なぜだ!?」
「だから理由は把握していないとさっき説明したはずだ。鶏の世話をしている間に自分の頭まで鶏レベルまで落ちちまったのか?」
リーダー格の男がそうからかうと、周りの男たちはゲラゲラと大笑い。
「……最低の連中ね。あたしの魔法で吹っ飛ばしてやるわ」
「お、落ち着いてください、キアラちゃん」
「そうじゃ。恐らく、あの小屋には他の村民たちが捕らえられているのじゃろう。迂闊に飛びだしていったところで、連中は村人を人質に取って脅しにくるのは目に見えている」
ハノンの言葉はもっともだ。
ならばどうすべきか――答えは出ている。
「……シモーネ」
「は、はい」
「君の出番だ」
「はい?」
キョトンとした顔で俺を見つめるシモーネ――だが、彼女がこの状況を打開する切り札となる。
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