第64話 到着。しかし――
ネイサン村。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】をプレイしている際も何度か訪れたことのある村だ。
ストーリー序盤で世話になる機会が多いだけに、周辺の地理は大体頭に入っている。ドリーセンの村からのルートもバッチリだ。
そんなわけで、俺たちは俺たちでネイサン村に向けて出発することにし、現地で落ち合うこととした。
「それでわざわざ馬まで借りてきたってわけね」
「ルートは頭に入っているからな。それに、いつか馬もダンジョン農場で育てたいと思っているし」
「馬ですかぁ……いいですね!」
我が農場の飼育担当を務めるシモーネも乗り気だ。
何せ、あの凶暴なシルバークックを大人しくさせているくらいだからな。おかげでおいしい卵料理を食べられる。実にありがたい。
俺たちは荷台に必要最低限の物資を乗せて、ダンジョンをあとにする。
ちなみに、今回は俺が御者を務める。
グレゴリーさんのもとで修業を積んだ成果を見せないとな。
今回の旅路は実にのんびりしたものだった。
非常事態が起きていることには変わりないのだが、前回のエーヴァ村の時のように期限がついているわけじゃないし、すでにグレゴリーさんがセルヒオを連れて乗り込んでいるだろうから、安心だ。
もしかしたら、すでに解決しているのかもな。
問題はさっきも出てきたエーヴァ村との関連性だ。
木材の供給を阻んだり、今回の件……すべては裏で仕組んでいる黒幕がいるのではないか。そんな気がしてならなかった。
いずれにせよ、まずは村へ行って現状を把握することが先決だ。
しばらく馬車を走らせていると、山間に大きな湖が見えてきた。
あれこそ、村が近づいている何よりの証拠だ。
「わあっ! 綺麗な湖!」
「ホントじゃのぅ」
「なんだか泳ぎたくなってきちゃった」
「私もです!」
マルティナ、ハノン、キアラ、シモーネの四人は身を乗り出して湖を見つめている。
普段、ツリーハウスの前に大きな地底湖があるにもかかわらず大興奮だ。
……しかし、その気持ちも分かるな。
確かに地底湖は神秘的なオーラに包まれている。
魔力に満たされた聖水というのも大きな理由のひとつになるだろう。
だが、こっちの湖はなんというか……言葉で表現はしづらいんだけど、地底湖とはベクトルの違う美しさなんだよなぁ。
湖を眺めながらさらに進むと、いくつか家屋が見えてきた。
ようやくネイサン村に到着したらしい。
――だが、
「うん?」
俺は違和感を覚えた。
なんだろう……妙な気配だ。
「……これは思ったよりも複雑な事態のようじゃのぅ」
どうやら、ハノンも異変に気付いたようだ。
この村――誰も人がいない?
「どうなっているんだ!? セルヒオと一緒に先行しているはずのグレゴリーさんやライマル商会の人たちはどこにいったんだ!?」
家はある。
だが人はない。
どこに消えたっていうんだ?
「ど、どういうことなんでしょうか……」
「なんだか変ね。探知魔法を使ってみるわ」
「ああ……頼むよ、キアラ」
一体……この村で何が起きているんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます