第63話 出番

 泣きじゃくるセルヒオを落ち着かせると、今度はグレゴリーさんが語り始めた。


「彼の住んでいた村というのはここから南東にある農村で、村人のほとんどが農業に従事している。その歴史は古く、この国の食糧事情を支え続けてきたんだ」

「農業の村ですか……」

 

 そういえば、ゲームの中にもあったな。

 イベントで位置だけ立ち寄る村。

 そこでクエストを達成すればアイテムを入手できたはず。


 確か、名前は――


「ネイサン村……」

「おっ? 知っていたか」

「! え、えぇ! お客さんとの雑談の中で出てきたので、もしかしたら、と」


 普通にしていればバレるわけないんだし、後ろめたいことでもないんだから誤魔化す必要はないんだけど……ついついそうなっちゃうんだよな。


 気を取り直して。


「そのネイサン村では、農作物が収穫できない大不作に陥っているという噂があったんだよ」

「えっ?」


 それはかなり大きな問題じゃないか?

 あそこで収穫される野菜をあてにしているところはたくさんあるだろうし。収穫の見込みがないと分かったら……大損害は免れない。その量は、今の俺の農場ではまかなえない規模だ。


「でも、村に何かあったのなら、使者を送ってその事態を伝えるのでは?」

「俺もそこが気になっていた。――なあ、セルヒオ」

「……何?」

「どんな些細なことでも構わない。他に情報はないか?」

「じょ、情報って……あっ、そういえば」

「何だ?」

「俺が村を出る一ヶ月くらい前、王都から使者が来ていたよ」

「王都からの使者?」

「うん。……思い返すと、その辺りからみんなピリピリしていたな」


 それは気になる情報だな。

 王都から来たっていう使者が何かを伝えたわけか。


 ――しかし、グレゴリーさんが気になった点は他にあったようだ。


「ネイサン村は……エーヴァ村からそう遠く離れてはいない」


 ボソッと確認するように呟いたその言葉。

 エーヴァ村といえば、フォスター王国と共同で建築する予定の橋に使う木材を調達していた村だ。あそこは何者かが放ったカミキリムシ型のモンスターによって甚大な被害を受けていたが……まさか、


「グレゴリーさんは……エーヴァ村で起きた事件の犯人が、今回のネイサン村の一件にも絡んでいる、と?」

「まあ、な。しかし、なんの確証もない。あるのは両方の村が位置的に近いということだけだ」


 それだけなら、ただの偶然という線もあり得る。

 ただ……かなり確率の低い偶然だけど。


「とりあえず、確証を得るためにもネイサン村へ行ってみるか」

「!? 俺たちの村へ来てくれるのか!?」

「君は助けを呼ぶためにこの町へ来たんじゃないのか?」

「そ、それは……」


 グレゴリーさんはそこまで見抜いていたのか。

 セルヒオはやけを起こして村を出たのではなく、村を救うために町へやってきたのだ。パンを盗んだのは長旅での疲労から仕方なくってわけか。


「何か起きたのなら、村の人たちはなぜ報告をしないのか……気になるな」

「私も気になります! それに……困っている人がいるなら助けてあげたいです」

「俺も同じ気持ちだよ」

 

 これで、俺たちの行動も決まった。

 ていうか、きっとこういう流れになるのだろうとグレゴリーさんも読んでいたのだろう。


 ネイサン村。

 国を支える農業の村。

 エーヴァ村とのかかわりも含め、そこで何が起きているのか調べてみるか。

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