第62話 少年セルヒオの訴え
近況ノートなどでもお知らせしましたが、本作の書籍化が決定いたしました!
これもお読みいただいたみなさまのおかげ……本当にありがとうございました!
まだまだ決まったばかりでほとんど手をつけていない状態ですが(笑)
レーベルやイラストレーターなど、詳細な情報はもうしばらくお待ちください!
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ドリーセンで起きた窃盗事件。
その容疑者として身柄を拘束されたのは――なんとまだ十歳の男の子だった。
「坊主、名前は?」
「……セルヒオ」
「では、セルヒオ――君は本当に機能の窃盗事件に関与していないんだな?」
「しつこいなぁ! やってないって言ってんだろ!」
うんざりしたように言い放つセルヒオ。
パンを盗んだことは認めたし、それについては反省しているらしく、明日にも店へ顔を出して店主のハンスさんへ謝罪すると約束した。
だが、昨日の窃盗事件については完全否定を貫く。
俺とシモーネはその様子を部屋の片隅から見守っていた。
「やっぱり、あの子は犯人じゃなさそうですね」
「……あれは恐らく手慣れたプロの犯行だ。あの子にはできないよ」
「そうなんですか?」
シモーネは首を傾げているが……まず間違いないだろう。
たぶん、セルヒオへ質問しているグレゴリーさんや現場を目の当たりにしているフェリックスさんもそれに気づいているはずだ。
そう言える根拠は――現場が必要以上に荒らされていなかったことにある。人目が少ないのをいいことに、力任せで侵入したわけじゃない。周囲に散らばっていたガラス片の数から、最低限の労力で事を成し遂げたって感じがした。
もちろん、俺は捜査のプロってわけじゃないから、この考察が合っているかどうか自信はない。
だけど、グレゴリーさんの男の子に対する態度から、きっと俺と同じ結論に行き着いたのだろう。
しかし……俺たちをここへ残したのはどういった理由からなのか。グレゴリーさんのことだから、何もないのにこの場へ俺たちを置いておくことはしないはず。
何か……狙いがあるはずだ。
「なあ……もう行っていいか? パン屋のおっさんには明日ちゃんと謝るから」
「その前にひとつ答えてもらいたいことがある」
「なんだよ」
「君のお父さんは――タイラーという名前じゃないかな?」
「!? なんで親父の名前を!?」
「やはりか。なんとなく面影があったんでね。覚えていないかもしれないが、以前会ったことがあるんだよ」
「えっ!?」
「とは言っても、あの時の君はまだ生後間もない赤ちゃんだったが」
どうやら、グレゴリーさんはセルヒオの父親を知っているようだ。
「タイラーは誠実で素晴らしい男だった……大事な息子をひとりでこんな町中に放り出しておくなんて考えられない」
「ああ……そうだよ。俺はひとりで村から飛びだしたんだ」
セルヒオは涙交じりに語った。
その表情は憎しみや悲しみ――さまざまな負の感情が重なり合っているように映った。
あんな幼い子が……なんて顔をするんだ。
「どうやら、噂は本当のようだな」
一方、グレゴリーさんはソファに背を預けながら大きく息を吐いた。
「君の住んでいる村には……異変が起きているんだな」
異変。
グレゴリーさんがその言葉を発すると、セルヒオの表情が固まった。
「……詳しい状況はよく分からないんだ。でも、親父や村の人たちはいつもピリピリするようになって……」
ここで、セルヒオは「うわああああん!」と泣きだす。
心が折れないように強気を保っていたが、とうとうその我慢も限界を迎えたようだ。
そんな彼を抱きしめながら――グレゴリーさんの視線が俺たちへと向けられる。
……ようやく出番が来たらしい。
それにしても、セルヒオの村で起きている異変……か。
一体何があったっていうんだ?
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