第60話 帰り道
「大盛況じゃったのぅ」
「たくさんの人が買ってくれましたね!」
「ああ。この売れ行きなら今後も期待できるな」
移動販売からの帰り道。
夕焼けに照らされた荒れ道を行く俺たちの表情は満足感に包まれていた。
俺の発案で始めたこの移動販売だが、反響は想像以上に大きく、第二回の開催を望む声があちこちから噴出した。
勝算――とまではいかないが、売れるかもしれないという予兆は掴んでいた。
というのも、以前グレゴリーさんから、この地の冒険者たちはダンジョンへ潜る際に保存食として干し肉を持ち歩いていると聞いていたからだ。
まあ、肉はパワーの源だし、何かと力のいる冒険者たちにとっては欠かせない食材だろう――が、さすがに肉ばかりでは飽きがくる。
そこで、うちの野菜の出番というわけだ。
ダンジョンから戻ってきた組には久しぶりの新鮮な野菜として、これから潜る組には良き食事のパートナーとして重宝してもらえる。
そうした俺の狙いは的中し、見事な売り上げを記録したのだった。
ダンジョンへ戻ってくると、すでにマルティナとキアラは戻ってきており、夕食の準備に取りかかっていた。
その間、俺は農場へと足を運ぶ。
「うぅむ……この辺はもうちょっと広げられそうだな」
できたらここで牛を飼いたいんだよなぁ。
広々とした高原ってわけじゃないけど、頭数を制限すれば放牧するには問題ない大きさだと思うし、固い地面も竜樹の剣の力で一部を草原に変えることができる。
今はシルバークックと山羊だけだし……やっぱり乳牛が欲しい。
今回の移動販売で得たお金を元手に、牛を買えないかどうかグレゴリーさんに相談してみよう。
「ご飯できましたよ~」
畑の前で考え込んでいると、背後から元気なマルティナの声が聞こえた。
直後、鼻に入るのはとてもおいしそうな匂い……さすがは大貴族の屋敷で専属シェフをしているお父さんのもとで修業を積んだだけはある。この匂いだけでもうおいしい料理だって分かるもんな。
ツリーハウスへ戻ると、すでにキアラが皿を並べ終えており、もうすぐに食べられるところまで準備ができていた。
「今日は地底湖で釣れたお魚と野菜の煮込みですよ~」
大皿に盛られた魚と野菜たち。
香草の匂いも相まって自然と手が伸びてしまうな。
「早速いただくとするかのぅ」
「はい!」
待ちきれなくなったのか、ハノンとシモーネがフライング気味に食事を始める。
「まったく、揃ってから食べたらいいじゃない」
「久しぶりに体を動かしたらいつも以上に腹が減ってのぅ」
「そんなに激しかったんですか?」
「うーん……どうだろう?」
確かに忙しくはあった。
ただ、ハノンやシモーネの場合、あれだけ多くの人に囲まれるって状況がこれまであまりなかったから、その点での精神的疲労も重なっているかもしれないな。
「お疲れ様、ハノン、シモーネ」
「? それは店じまいの時にも聞いたぞ?」
「私もです」
「いや、なんとなくもう一度言いたくなったんだ」
口いっぱいに頬張って食べているふたりを眺めながら、俺はそう呟く。
今日はふたりとも大活躍だったし、おかげで農場をさらに強化できそうだし、感謝しないとな。
さて、明日は農場拡大を試みつつ、午後になったらドリーセンの町へ出向いてグレゴリーさんに乳牛の情報について聞いてみるとするか。
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