第59話 新たな試み
ドリーセンの町で起きた泥棒事件は気になるところではあるが、俺としてはこれから始めようとしている新しい試みで頭がいっぱいだった。
「よし。こんなところかな。みんな、協力してくれてありがとう」
「「「「「キキーッ!」」」」」
手伝ってくれたウッドマンたちにお礼を言うと、みんな嬉しそうに飛び跳ねていた。無邪気だなぁと思いつつ、早速完成したこいつのお披露目に行こうかと思ったら、
「なんじゃ? 屋根付きの荷車なんて作ってどうする?」
興味深げな表情を浮かべるハノンがやってきた。
「こいつは野菜の移動販売用に作ったんだ」
「移動販売じゃと?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるハノン。
そんな彼女にも分かりやすいよう、説明を始める。
「この荷台に農場で採れた野菜や薬草を詰めて売りに行くのさ」
「ドリーセンへ?」
「いや――ダンジョンさ」
そう。
今回のメインターゲットは冒険者たち。
最初はこの空間の一部を開放して直売所にしてもいいかなと思ったが、タチの悪い輩に絡まれても厄介なので、場所をダンジョンの入り口に変更して販売することにした。
「大口の専属契約はもらえたけど、俺はまだまだこの農場を大きくしていきたいんだ」
「野心を持つことはいいことじゃない」
「そこまで大層なものじゃないな。目標ってくらいか」
「随分と控えめじゃのぅ」
ハノンはそう言って小さく笑う。
それから、ふたりで売れそうな作物を見繕い、荷台に入れるとツリーハウスに巻きつく蔓を操ってそれを天井に空いている穴から外へと出した。
それが終わる頃、
「あれ? お出かけですか?」
シルバークックの世話を終えたシモーネが合流。
事情を説明すると、一緒に行きたいとのことなので手伝ってもらうことにした。
ちなみに、マルティナとキアラは朝早くにダンジョンへ冒険に出かけている。……キアラは勉強大丈夫なのだろうか……。
まあ、キアラのことだから、その辺はうまく折り合いをつけているだろう。
諸々の準備が整うと、俺たち三人は荷車を引いてダンジョンの入り口へ向かって移動を始めた。
ダンジョン入り口周辺は冒険者で賑わっていた。
これから挑む者。
挑戦を追えて戻ってきた者。
そのどちらにも、うちの野菜や薬草は必需品だろう。
開店の準備を進めていると、シモーネの件で顔見知りとなった数人の冒険者たちがやってきた。
「今度は何を始める気だ、ベイル」
「移動販売ですよ」
「移動販売? ――うおっ!?」
荷車の中を見た冒険者は驚きの声をあげる。
栽培しているフレイム・トマトやサンダー・パプリカはもちろん、俺がライマル商会を通じて入手した種をもとにダンジョン農場で栽培した薬草の数々――冒険には欠かせないアイテムが目白押しなのだ。
「これは……凄いな」
「今ならお安くしておきますよ?」
「本当か!? なら、これとこれをくれ!」
「お買い上げありがとうございます」
まだ開店していない状況ながら、早速作物が売れていく。
これをきっかけに、周囲の冒険者たちも俺たちの移動販売に気づいて何事かと集まってきた。さらにはハノンとシモーネという看板娘たちの存在も、売り上げに大きく貢献してくれたのだった。
移動販売は大盛況で、商品は瞬く間に売り切れ。
さらには「ぜひまたやってくれ!」とリクエストもいただいた。
……ふむ。
思っていた以上に需要はありそうだな。
この移動販売は今後定期的に行うことにしよう。
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