第58話 ひとまず解決

 神種ボッシュの効果により、橋の建設に必要な木材の確保が可能になった。

 グレゴリーさんはこの状況を王族関係者に伝えるため、一旦王都へ戻ることとなった。

 俺たちとしても、当初の役目は果たしたので地底湖のツリーハウスへ戻ろうということで意見は一致した。


「本当に助かったよ、ベイル」

「お力になれてよかったです」


 俺とグレゴリーさんは固い握手を交わす。

 これでまた、ライマル商会との関係は強化された。


「今回の件、君たちの活躍は俺の口からしっかり王族の方々に報告をしておくからな」

「ありがとうございます」


 おまけに王族にまで名前が知られるように――って、さすがに向こうは俺のことを知っているだろうから、ピンとくるかもしれないな。とはいえ、別にこれといって深いつながりがあるわけではないので積極的にこちらへ絡んでくることもないかな。


 まだまだ実績は足りない。

 タバーレス家との専属契約や、今回の木材確保の件。

 ゆっくりではあるが、着実に成果を伸ばしていけばいい。無理せず、のんびりとやっていこう。俺はそう心に誓った。



  ◇◇◇



 超巨大カミキリムシをあの森へ放った真犯人――気になるところではあるが、その辺はグレゴリーさんや騎士団の仕事だ。

 俺はあくまでも農夫。

 地底湖のほとりにある農場を運営し、ゆったりとしたスローライフを満喫する。

 今回の件で、新しい神種の能力はバッチリ把握できたし、今後も活用していくことになるだろうな。


「ねぇねぇ、今日はどこかで食べていかない?」

「いいですね!」

「ならば、オーリン亭へ行かぬか?」

「私、あそこの料理好きです!」


 馬車の中で、今日の晩御飯について楽しげに話す四人。

 マルティナやキアラは「私何もしていない……」としょげていたが、これまでみんなが協力してくれたからこうした依頼が来るようになったんだと説明すると、明るさを取り戻していた。


 現に、この四人が集まらなかったら、ここまでの成果は出なかったんじゃないかな。

 もちろん、ウッドマンたちもよく働いてくれているが、使い魔的な存在である彼らとは役割が異なるからな。


 ハノンのリクエストにより、俺たちはオーリン亭という食堂を目指していたのだが、その際、ある出来事と出くわす。


「うん? なんだ、あの人だかりは」


 町の一角に、人が集まっている。

 どうやら野次馬みたいだけど……何があったんだ?


 俺たちも詳細を知ろうと近づくと、人だかりの中心には見知った顔がいた。


「あれ? フェリックスさん?」

「うん? ――おおっ! ベイルか!」


 この町の冒険者ギルドを仕切るギルドマスターのフェリックスさんだった。


「何かあったんですか?」

「あぁ……なかなかショッキングな出来事だよ」


 フェリックスさんがそこまで言うなんて。

 よほどの事態が起きたらしい。


 よく見ると、フェリックスさんの背後にある建物の窓ガラスが割られている。もしかして、


「泥棒ですか?」

「うむ。今は被害者に話を聞いているとこだ」

「犯人の足取りは?」

「今のところ、まったく掴めていない」

「結界魔法は?」

「ここは留守中に結界魔法を展開し忘れたらしくてねぇ。おまけにここはにぎやかな中央通りから少し離れた場所で、普段は人通りも少ない。悪条件が重なったとはいえ、同情するよ」


 なるほど。

 町で起きた事件なら、治安維持も任されているギルドマスターの出番ってわけか。

 しかし……泥棒、か。

 このドリーセンの町は自警団の練度が相当なもので、なおかつ防犯意識も高くてなかなかそういった事態と鉢合わせることはなかったが……相手はよほど切羽詰まっていたってわけか。


 となると、味をしめて再犯に及ぶ可能性もある。

 俺たちの地底湖も、しっかり施錠をしないと。


 防犯意識を改めつつ、俺たちは食堂へと再出発した。 

 ――まさか、この事件があんなことにつながるなんて、この時は微塵も感じていなかったのだった。


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