第57話 癒しの蔓

 竜樹の剣から生みだされる神種。

 その中でも癒しの能力に特化したボッシュという天界の植物――これなら、モンスターの卵を植えつけられて弱った森をよみがえらせることができるはずだ。


「さあ……頼んだぞ」


 剣先の種を、俺は地面へと落とす。

 種は自ら地中へと潜っていき、しばらくすると激しい横揺れが襲ってきた。


「じ、地震か!?」


 動揺するグレゴリーさんたち。

 一方、マルティナたちは落ち着いていた。

 みんな、この横揺れが神種の成長に伴って発生したことに気づいているようだ。さすがは普段から俺の仕事を見ているだけはある。

 しばらくすると、地中から蔓が出てきた。

 それもひとつやふたつではない。

 無数の蔓が、卵を植えつけられた樹木へと巻きついていく。


「ど、どうなっているんだ、これは!」

「大丈夫ですよ、グレゴリーさん」

「だ、大丈夫って……」

「あれはボッシュという天界の植物で、弱った植物を元気にする力があるんです」

「そ、そんな植物が――あっ!?」


 急に大きな声を出したグレゴリーさんの視線の先では、早速ボッシュがその役割を果たしたようだ。


 ボッシュが巻きついた樹木は淡い輝きを放ち、その直後、引っ付いていたモンスターの白い卵が黒く変色して地面へと落ちた。

 これぞボッシュの持つ癒しの力の効果。

 うまい具合に発動してくれてよかった……ていうか、最初からこうしておけばよかったな。


「こ、こんな力があるとは……」

「すいません……最初からこいつを思い出していれば応援を要請しなくてもよかったんですが……」

「いやいや、どうせ伐採後の加工にも人員を割かなければいけなかったし、それ自体は何の問題もない」


 次々と木々を癒していく光景を眺めながら、グレゴリーさんは満足そうにそう言った。

 とりあえず、うまくいったみたいで何よりだ。



 広範囲に渡って樹木を癒していくボッシュ。

 元に戻った木は、村の木こりやグレゴリーさんの部下の手によってすぐさま伐採が行われ、納期までに木材をおさめられるよう作業が進められた。


「このペースなら十分間に合うな」


 作業を見守っていたグレゴリーさんは、出荷の目途が立ったことでホッと胸を撫で下ろしたようだ。


「これなら城へもいい報告ができるだろう」

「よかったですね」

「ああ。……それにしても、今回もまた君に助けられたな」

「いえいえ、そんな」


 タバーレス家での食材に続き、今回の木材確保の件も竜樹の剣がもたらした恩恵によるものだ。凄いのは俺じゃなくて竜樹の剣――なのだが、グレゴリーさんから言わせるとそれだけではないらしい。


「アイテムだろうが武器だろうが、使う者の心次第でどうとでも変わるからな。その竜樹の剣が君に授けられたという事実が、俺にとって――いや、この国にとって最良の結果をもたらしたな」


 まあ、今回の件は下手をしたら国際問題に発展しかねないからな。

 問題は――その国際問題を狙って事件を起こした黒幕がいるってことだ。

 その点はグレゴリーさんも重々承知しているようで、しかるべき組織へ報告を出したのち、原因究明に向けて調査をするという。


 その辺の政治的なお話は専門家に任せるとして……その後、俺たちは森の様子を見回りながら可能な限りで手伝いを行った。

 商会だけでなく、村の人たちからも深く感謝され、結局その日は盛大なもてなしを受けることになってのであった。

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