第56話 対応策

 森の樹木に卵を植えつけてダメにしていた犯人――超巨大カミキリムシは、水竜シモーネの活躍によって撃退された。


 続いて、俺たちが取りかかったのは卵の除去作業だった。

 幸いにも、この辺り一帯の卵はまだ孵化しているものはないようで、グレゴリーさん曰く、今からしっかり駆除していけば木材として利用できる強度を保てるという。


 ただ、俺たちが保管場所で見た木のように、すでに孵化した幼虫のエサとなっているものについては再起不能だろうとのこと。

そして何より、


「これだけ大規模な発生は過去に例がない。……恐らく、何者かが成体をこの森へ放った可能性がある」


 国の管理下にあるというこの森の周辺には、先ほどシモーネが倒したような昆虫型モンスターが出入りしないため、虫除けの結界魔法が展開されている。

 だが、キアラに調査してもらったところ、そのような気配はないという。


「結界魔法が打ち破られているのか……」

「だとしたら、実行犯は相当な実力者だな」


 グレゴリーさんは腕を組んで複雑な表情を浮かべながら森を眺めていた。

 それからしばらくして、応援が到着。

 さらに、モンスターの脅威が去ったことで村の木こりたちも協力してくれることになり、作業効率は一気に上昇した。

 安全が確認され次第、伐採が行われ、木材を確保していく。

 ――が、


「ダメだ。今のペースでは間に合いそうにないぞ」


 額の汗を拭いながら、グレゴリーさんが呟いた。

 除去作業は力仕事だし、そのあとで伐採も控えている。さらに、今もこうして作業をしている途中も、あのモンスターの幼虫が森の木々を食い荒らしているのだ。

 このままでは、木材確保どころか、この森の存続自体も危ぶまれる。


「騎士団に応援を要請してもらったらどうでしょうか。森に残っている幼虫の駆除をお願いすれば、これ以上被害を広げなくて済みます」

「それしかないか……まあ、結界が破られていること自体は気づいているだろうから、国も何かしらの対策は練っているだろうよ」


 こうして甚大な被害が出ている以上、国も放ってはおかないのだろうけど……もうちょっとフットワークが軽くてもいい気がする。


 その時、不意に俺はあることを思い出した。


「神種……」


 地底湖のツリーハウスを造る際に使用した神種――ウィドリー。

 天界産のこの種は、さまざまな方面で規格外の効果をもたらす。ゲーム内における圧倒的なバランスブレイカー……だが、神種はあそこで使用した物だけじゃない。他にも恐るべき効果を秘めた神種が存在するのだ。


 ……クソっ!

 俺としたことが、どうしてこれを最初から試さなかったんだ。


「グレゴリーさん!」

「どうした?」

「もしかしたら……今すぐに事態が解決するかもしれません」

「何だって!?」


 突然の話に声を荒げるグレゴリーさん。

 その様子を尻目に、俺は竜樹の剣を構える。


「癒しの蔓――《ボッシュ》!」


 俺がそう唱えると、竜樹の剣の先端が光に包まれた。

 それはやがて小さくなり、ひとつの種へと姿を変えたのだ。


「こ、これが……神種……」


 その輝きに圧倒されるグレゴリーさん。

 一方、うちの仲間たちは慣れたもので驚かなくなった。ハノン、シモーネ、キアラは初見と思うのだが、「それくらいならやるだろうな」という気持ちがあったようで、グレゴリーさんほど大きな反応はなかった。



 さて……それじゃあ、その効果を早速見せてもらうとするか。

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