第55話 水竜シモーネの本気
グレゴリーさんとともに、俺たちは森へ入ってさらなる調査を行うこととなった。
「……特に目立った異変はありませんね」
「油断するなよ、ベイル。どこにモンスターが潜んでいるか分からないからな」
その通りだ。
さすが、百戦錬磨のグレゴリーさん。
注意すべき点を理解している。
そのうち、俺たちはひとつの木に狙いを定め、調査をすることに。
「こいつはひどい……害虫の卵が植えつけられていやがる」
想像以上に深刻な現状を目の当たりにしたグレゴリーさんの顔が歪む。
俺たちが調査対象に選んだ樹木以外にも、害虫の卵と思われるものが無数にくっついている。正直、かなり気持ち悪い光景だ。
「「…………」」
現に、キアラとマルティナは気絶一歩手前だった。
ハノンとシモーネは平気そうだが……それでも、気分を害するには十分すぎるインパクトがある。
「醜悪じゃのぅ……」
「で、ですねぇ……」
「とりあえず、除去する必要があるな」
顔を引きつらせるハノンとシモーネ。
その横から、大型ナイフを手にしたグレゴリーさんがやってきて、卵を切り落とし始めた。
「よし。この辺はまだなんとかなりそうだ」
「俺も手伝います」
「わ、私も!」
「あたしだって!」
「ワシらも行くかのぅ」
「はい!」
とりあえず、今いるメンバーを総動員して害虫の卵除去に挑む。
その時――
ガサガサガサ!
頭上から大きな物音がしたと思ったら、たくさんの葉っぱが降り注ぐ。何事かと見上げた俺たちは、「それ」を視認すると思わず固まってしまった。
「どうやら……ママの登場らしい」
小声でつぶやくグレゴリーさん。
そう。
姿を現したのは、たくさんの樹木に卵を植えつけた昆虫型モンスターであった。
その姿はカミキリムシに酷似しており、強靭な顎をゆっくりと動かしながらまるで選別するように俺たちを眺めている。
特筆すべきはその大きさだ。
ゆうに三メートルはある。
この近辺では目撃例のないサイズだ。
「ヤツの顎に捕まったら、あっという間に真っ二つだ」
「だ、だったら、炎魔法で灰にしてやるわ!」
杖を構えて攻撃をしようとするキアラだが、俺は腕を伸ばしてそれをやめるよう合図を送った。
「待て、キアラ。ここは森の中だ。もし外して他の樹木に火がついてしまったら、それこそ取り返しのつかないことになる」
ヤツに炎魔法は効果絶大なんだろうけど……木々の密集したこの場所での炎魔法はご法度だ。何か、別の方法でヤツを退けなければ、卵の除去はできない。
どうするべきか――頭を悩ませていると、
「私にお任せください!」
そう力強く言ったのはシモーネだった。
「シ、シモーネ? 何をする気だ?」
「怪我も完治してお腹も心も満たされている今なら――水竜としての力を存分に発揮できます!」
そう言うと、シモーネはその姿を人間形態からドラゴン形態へと変えた。そして、巨大カミキリムシ型モンスターをくわえると遥か上空へと舞い上がる。ある程度の高さまで上昇すると、今度は急降下。勢いをつけてモンスターを地面へと叩きつけたのだ。
「ギッ!?」
短い悲鳴をあげたモンスターはしばらく足をばたつかせていたが、やがてその動きは完全に止まり、ピクリとも動かなくなった。
「さ、さすがだな……」
「ですね……」
俺とグレゴリーさんはシモーネのスケールが違う活躍ぶりに茫然とする。
「ちょっと! 邪魔者がいなくなったんだから除去作業を開始しましょうよ!」
キアラから声をかけられてようやく我に返った俺たちは、すでに作業を始めているキアラとマルティナに続く。
なんとか、橋の建設に必要な分だけでも確保できればいいのだが。
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