第54話 疑惑

 ハノンが指摘する「厄介な問題」――当初、俺はそれをこの病気の治療が困難であることを示しているのだと思っていた。

 ……が、どうやら違うみたいだ。


「こ、これは……」


 竜樹の剣が反応している。

 俺に何かを訴えるかの如く脈打っているのだ。


「まさか……」

「何か分かったのか、ベイル」

 

 こちらの様子がおかしいことに気づいたグレゴリーさんがそう尋ねる。

 言うべきかどうか悩んだが……俺は真実を告げることにした。


「この辺りの樹木に起きている異変――もしかしたら、自然現象ではなく、人為的に発生させられたものである可能性があります」

「なんだと!?」


 ただでさえ怖いグレゴリーさんの顔つきがさらに厳しくなる。

 人為的に発生した。

 それが意味するのは……本来なら起きるはずのなかった事態が、何者かの手によって無理やり行われたということ。ひいては、クレンツ・フォスター両国の望ましい関係を破壊しようとしている者がいることを指していた。


「もしそれが本当ならえらいことだぞ……何か、確証はあるのか?」

「この病気なんですが……ある害虫が引き起こすものと考えられています」

「害虫が?」

「はい。問題はその害虫が――この近辺に生息しているものではないということです」


 広範囲の樹木を短時間でダメにする。 

 そんな、限定された力――もっと言えば、強力な毒素を持った昆虫はそういるものではない。だが、ここまで事態が深刻化するほどの被害が出ているとなったら、それを意図的にバラ撒いたヤツがいるはずだ。


 俺は【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の内容を思い出してみる。

 あれは樹木じゃなくて野菜などの作物に限られていたが、確かに害虫によって被害が出るという突発イベントがあった。

 それによると、この手の病気をもたらす害虫を駆除するためには、その害虫と戦って勝利する他ない。農薬みたいなものもないだろうし、物理的手段に出るのは仕方がないことなのだろうけど……その害虫っていうのが、これまたかなり大きいんだ。


 おまけに、木材の強度を弱める毒素を持ったヤツはゲームに出てこない。

 つまり、完全にオリジナルの敵と戦うことになる。

 こればっかりは、俺のゲーム知識は役に立ちそうにないな。


 とはいえ、こちらにはグレゴリーさんが連れてきた名うての冒険者が数名いるし、マルティナ、キアラ、ハノン、シモーネの四人は戦闘もこなせる。

 ……あれ?

 戦闘になると俺だけお荷物にならないか?


 ――違う。

 この前確かめたじゃないか。

 俺だって戦えるんだ。


「グレゴリーさん、森を調査してみましょう」

「……そうだな。これ以上被害が増えるのは御免被りたいしな」

「村長さん、納期はいつまでですか?」

「い、一週間後ですが……」

「森の奥の方から木材を運びだせれば間に合いそうですか?」

「い、今すぐ始めればなんとか……」

「よし。フェリックスに使いを送って、応援を寄越してもらおう。あいつも橋の建設がうまくいって客が増えることを望んでいるから喜んで協力をしてくれるはずだ」


 グレゴリーさんはそう言うと、手近にいたふたりの若者を呼び寄せ、「手紙を書くからそれをギルドのフェリックスに届けてくれ」と指示を出す。


 一方、俺たちは、


「森の中にはモンスターがいるかもしれないのよね」

「日頃の鍛錬の成果を見せましょう!」

「たまには軽く運動した方がいいじゃろう」

「が、頑張ります!」

 

 四人ともヤル気満々みたいだな。

 とりあえず、仕掛け人の方は後回しにして、原因となっている害虫駆除に乗りだすとするか。

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