第53話 現地調査
俺たちの暮らすクレンツ王国と隣接するフォスター王国。
両国は長らく対立関係にあったが、近年になってそれが解消され、今は良好な関係を築くため、さまざまな交流事業が展開されている。
今回のビアン川に架かる橋の建設も、そうした事業の一環として行われる――はずなのだが、そこで使用する木材に何やら異変が起きたらしい。
国から物資調達を委託されているライマル商会にとって、ここで対応を失敗すれば一気に存続の危機へ陥る死活問題だ。それは商会に作物を卸している俺たちにとっても無視できない事態となる。
といったわけで、俺たちは現地調査に赴くグレゴリーさんたちに同行し、解決に向けた対策を取ることにした。
そしてたどり着いたエーヴァ村。
ここをひと言で例えるなら「穏やか」だろうか。
視界一面が緑色に染まるほどの広大な森林。
遠くから聞こえる小川のせせらぎと宙を舞う小鳥たちのさえずりが合わさって、心が浄化されている気さえした。思わず深呼吸をしたくなるな。
「空気もおいしいし……いいところですね」
「まあな。交通が不便というのが厄介だが」
グレゴリーさんは苦笑いを浮かべながら言う。
確かに、もうちょっとインフラ整備は必要かな。
「おおっ! お待ちしておりました、グレゴリー様」
俺たちが到着するやいなや、村から初老の男性が飛びだしてくる。
「村長、今回は大変だったな」
グレゴリーさんはそう言って、男性のもとへと駆け寄る。どうやら、あの人がエーヴァ村の村長らしい。
額からはダラダラと汗を滝のように流し、落ち着かない様子。
相当切羽詰まっているようだ。
「木材は今どこにある?」
「こ、こちらに」
「分かった。ベイル、来てくれ」
「はい」
早速、問題の木材を見に行くようだ。
グレゴリーさんに呼ばれた俺はその後ろをついていこうとするが、その前に、
「ハノン」
「なんじゃ?」
「アルラウネである君の意見も聞きたい。ついてきてくれ」
「いいじゃろう」
植物のことは、植物に聞くのが一番いい。俺たち人間には気づかない点を察知できるかもしれないし、同族ならではの視点があるはずだ。
ハノンも俺の狙いを汲み取ってくれたらしく、すんなりとついてきてくれることに。他のみんなは商会の方の手伝いとして積み荷下ろしの作業へと回ることになった。
村内にある木材保管所。
そこでは、木こりたちによって伐採された木材が行儀よく並んでいた。
その中のいくつかは、小さく切り分けられており、村長曰く強度を測るため、このサイズにしているという。
グレゴリーさんはそのうちのひとつを手に取ると、指でコンコンと優しく叩いた後、地面に打ちつけてみる。すると、「バキッ!」という音を立てて木材は折れてしまった。
「こいつはひどいな……」
表情をひきつらせながら、折れた木材を見つめるグレゴリーさん。
打ちつけたとはいえ、それほど力は込めていなかった。それにもかかわらず、木材はいとも簡単に折れてしまったのだ。あれで橋を造ろうものなら……ちょっとした風ですぐに壊れてしまうだろう。
「詳しい調査結果が出ていないので何とも言えませんが……恐らくは病かと」
「そのようだな。……で、どの辺りまで浸食されている?」
「村の近辺は全滅でした。もう少し遠出をすれば、調達可能な樹木があるかもしれませんが……」
「いちいち調べている時間はないな」
「も、申し訳ありません、グレゴリー様!」
涙ながらに謝罪をする村長。
……いや、村長は何も悪くない。
これは自然現象だ。
誰のせいでもない。
――っと、思っていたのだが、
「……ベイルよ」
「? どうした、ハノン」
「これは少々――いや、かなり厄介な問題かもしれんぞ」
ハノンが難しい顔をして、そう告げた。
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