第52話 夕食会議
「――っと、言うわけで、明日はエーヴァ村へ出張します!」
商会から帰った日の夜。
俺は夕食後のティータイム中にみんなへそう宣言した。
「随分と急な話ね」
「でも、グレゴリーさんからの依頼なら引き受けないわけにはいきませんね!」
「あの御仁にはだいぶ世話になっておるからのぅ」
「困っているのならお助けをしないとですね!」
正直、俺ひとりで行こうかとも考えていたが……この調子だと、みんな一緒についていくことになりそうだな。乗り気になってくれているのは大変ありがたいけど。
「それにしても、ビアン川ってことは……その隣国って、つまりフォスター王国のことよね」
「ああ……どうもそうらしい」
「えっ? 何か問題があるんですか?」
元貴族である俺と、スラフィンさんという国家事業にもかかわりがある人物を母に持つキアラには、事情が察せられるところだが……他の三人からしてみればあまりピンとこないのだろうな。
「実は、このクレンツ王国と隣国のフォスター王国は……簡単に言うと、ちょっと前まで仲が悪かったんだ」
「えっ? そうなんですか?」
「領地を巡って何度か小競り合いを起こしているのよ」
しかし、それはもう半世紀以上前のこと。
現在は両国の間に平和条約が結ばれ、交易も行われている。
――だが、あの頃の戦いで肉親を失った者も少なからず存在しているので、互いの国を未だに信用していない民もいた。
ふたつの国を分断するビアン川に橋を架ければ、お互いの交流はもっと多くなる。それを「良し」としない勢力も必ずいるはずだ。
恐らく……ギルドに訪れた役人も、グレゴリーさんも、最初にエーヴァ村での話を聞いた時、樹木の病気は自然発生によるものではなく、その「隣国を信用していない民」の仕業ではないかと疑ったはず。現に、俺も最初はそう思った。
ただ、それが原因でまた隣国ともめてしまえば、今度は国の存亡をかけた一大戦争に発展する可能性もある。
そのため、この橋の建設は、まさに平和への架け橋となる事業だった。
「……橋の建設は、必ず成功させる」
「そうね。そのためにも、まずは木材を調達できるようにしないと」
「それはそうなのじゃが……可能なのか、ベイル」
ハノンにそう問われたが……即答はできなかった。
とにかく、現地へ行ってみなければなんとも言えない。
ゲームの世界でも、このような使い方はしたことがなかったからな。
こうして、俺たち五人は揃ってエーヴァ村へ行くことを正式に決定。
今日は明日に備えて早めに寝ることとなった。
◇◇◇
翌朝。
「迎えに来たぞ、ベイル」
ツリーハウスの屋上玄関から、グレゴリーさんの野太い声が響く。
「みんな、準備はいいな?」
「「「「おー!」」」」
威勢のいい返事をした後、それぞれに必要なアイテムを詰めたバッグやリュックを手に持った。
クレンツ王国とフォスター王国。
ふたつの国の未来を決める大事な橋――この建設を成功させるためにも、竜樹の剣の力を最大限に引き出し、樹木の回復を目指す。
目指すは――木こりの里・エーヴァ村だ。
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