第51話 可能性

 グレゴリーさんが頭を抱える案件。 

 どうもその案件を解決するための鍵が、俺にあるらしいのだが……どこかで大規模なききんでも起きたか?


 とりあえず、いつもの部屋に通されて、出されたコーヒーを飲みながら話を聞くことに。


「さっきの話だが……今、この国と隣国の間を結ぶ大きな橋を建設中なんだ」

「あぁ、ビアン川を渡るための」

「その通りだ」


 なるほど、と思った。

 ビアン川は大陸でも三指に入る大きな河川で、雨が続いた日は洪水を起こすこともあった。しかし、この川を渡ることができれば、隣国にある大都市への移動時間は半分以上短縮できるだろう。

 そうしたことから、あの川に橋を架けるという国家事業が数年前から行われていたわけだが……川の氾濫などで何度も延期になっていると聞いたな。


「もしかして、橋の建設に目途が立ったんですか?」

「ああ。隣国と建設費用を折半するってことで先日合意してな。近いうちに、両国から腕利きの職人たちが招集されるんだ。うちは商会だから、直接工事に携わるってことはないんだが――」

「そこで使用する木材などの調達を委託された、と」

「そうなんだが……その調達に少々問題が発生してな」


 その問題を解決するため、担当者と話し合っていたってわけか。

 で、肝心の問題とやらは一体何なんだろう。


「それで、問題というのは?」

「伐採して木材にしようと思っていた樹木が病気になったようで……強度がガタ落ちして使い物にならなくなってしまったんだ」

「えぇっ!?」


 お、思っていたよりもヤバそうな案件だな。


「ここからほど近いエーヴァという木こりの村へ依頼したのだが、今はその村の人たちが総出で原因の究明と樹木の治療に当たっている。……が、報告によれば経過は思わしくないらしい」


 肩を落とすグレゴリーさん。

 国家の一大事業で成果を出せば、商会としての名がさらに高まる。それを見越して相当気合が入っていたんだろうな。


 それで、俺の竜樹の剣を頼ったってことか。

 

「うーん……樹木ですか」

「君は立派なツリーハウスに住んでいたから、野菜だけじゃなくそっち方面にも強いのかと思ってな」

「……正直、自信を持って答えることはできませんね」


 俺たちが住むツリーハウスは神種から生まれたものであって、厳密に言うと竜樹の剣の能力で造ったわけじゃない。

 しかし、育てている野菜たちの病気を治すことなら可能だ。実際、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中ではそうした能力も使えた。今は近くに聖水があるから、そのような力を披露しなくてもいいってだけなのだ。


 もし、その能力を樹木にも応用できたら――これは大きな発見だ。それは同時に、俺がやろうとしていた「ゲーム内では試せなかったこと」にも該当する。


 やってみる価値は大いにあるな。


「……グレゴリーさん」

「うん?」

「その村はどこにありますか?」

「!? やってくれるか!?」

「できるかどうかは分かりませんが、挑戦はしてみようと思います」

「ありがとう、ベイル!」


 まさに藁をもつかむ思いだったようで、グレゴリーさんからは深く感謝された――とはいえ、まだ何も試していないのだ。彼の望むような結果が待ち構えているとは限らないのである。

 多少の不安はあるが……まあ、試してみるか。

 

「では、明日の朝、迎えに行くよ」

「分かりました」


 こうして、俺の新たな挑戦が始まったのだった。

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