第50話 和解。そして新たな問題
「そうか……マルティナがそんなことを……」
マルティナが自身の夢を語ってから数日後。
俺は野菜を届けるついでに、ヒューゴさんへ真相を語った。もちろん、マルティナからの許可は得ている。
「あの子には……私以上に料理人としての才能があった。いずれは大陸でも屈指の料理人としてその名を轟かせるだろうと――私の果たせなかった夢をあの子なら叶えられると思っていたのだが……いつしか、私は自分の夢をあの子に押しつけていたのだな」
ヒューゴさんは、自身の果たせなかった夢をマルティナに託したこと、そして、それが重荷となり、マルティナを苦しめていたことを知って猛省する。
「それにしても、娘は随分と君のことを気に入っているようだね」
「そ、そうでしょうか」
まあ、仲は悪くないと思う。
仮にも一緒に暮らしているわけだし。
「私は、あの子の夢を応援しようと思う。もし……君にとって迷惑でないのなら、どうかこれからも末永くマルティナをよろしく頼む」
「分かりました」
俺は即答する。
今やマルティナは俺たちにとって大事な仲間だ。
「彼女は大切な存在です。今や、彼女なしの生活なんて考えられませんよ」
おいしい料理を作ってくれるし。
俺がそう告げると、ヒューゴさんはなぜか一瞬驚いたような表情を浮かべ、そのあと、
「頼もしい言葉が聞けてよかった。不束者ではあるが、どうかよろしく頼む」
深々と頭を下げたヒューゴさんは、俺の両手をガシッと力強く握りながら言う。……なんだろう。何か、間違った方向に捉えられている気がしないでもないが……そんなことはない、か?
ともかく、無事に野菜は届けられたから、今日はこの辺りで失礼するとしよう。
ドリーセンの町へ戻ってきた俺は、ツリーハウスのある地底湖へ戻る前にライマル商会の店を訪ねた。
今回はマルティナの件もあったので、俺が直接出向いたが、次回以降は商会の人に届けてもらう予定なので、その挨拶も兼ねての来訪だった。
――ところが、
「うーむ……それは弱りましたな」
「グレゴリー殿の人脈で、なんとかならないだろうか」
「一応、声をかけてみますが……いかんせん急な話過ぎて目途が立つかどうか」
「ぐぅ……やはりそうか」
先客がいた。
見ているだけで肩が凝りそうなピシッとした出で立ち……あれは平民じゃない。恐らくは王政絡みの役職に就く者か。
その人物は「無理を言ってすまなかった」とグレゴリーさんに謝ると、肩を落として店を出ていった。
「あの、グレゴリーさん」
「おっ? 戻ったか、ベイル」
「はい。――ところで、さっきの人なんですけど」
「あぁ……彼は役人だよ。ちょっとトラブルが起きたんで、その解決策を相談に来たんだが……不甲斐ない。力になれなかったよ」
残念そうに呟くグレゴリーさん。
すると、
「いや、待てよ。もしかしたら……君なら解決できるかもしれない」
「? 俺が、ですか?」
俺に頼むということは……作物絡みのことか?
「詳しく話をしたいんだが、この後いいか?」
「特に予定があるわけではないので、大丈夫ですよ」
「よかった! 奥へ来てくれ。そこでゆっくり話そう!」
一気にテンションが上がるグレゴリーさん。
一体、どんなトラブルが起きたっていうんだ?
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