第46話 面倒事

 タバーレス家が主催する舞踏会へ参加する貴族たちが、続々と屋敷に集まってくる。

 その中には、俺の従弟であり、今やオルランド家の将来を担う神剣使い――ディルクの姿もあった。


「厄介なヤツが招待されているなぁ……」

「厄介なヤツ?」


 俺が眉根を寄せて言うと、キアラがその視線を追ってその正体を知る――視線の先には他の貴族たちとの会話に花を咲かせているディルクの姿があった。


「あぁ……あいつね」


 キアラはすぐに俺の気持ちを汲んでくれたみたいだ。

 彼女の場合、同じ学園に通っている、いわば同級生という間柄なのだが、あまり仲がいいって感じじゃない反応だったな。

 ……まあ、ディルクの性格を考えたら、逆に仲良くできるヤツの方が限られているのかもしれないが。

 

 ともかく、ディルクに見つかるとまた何を言われるか分からないから、俺たちは屋敷の中へと戻った。

 すると、調理を終えたヒューゴさんとバッタリ出会う。


「やあ、待たせてすまなかったね。少し話をしたいんだが……いいかな?」

「はい。いつでも大丈夫です」

「よかった。部屋はもう用意してもらっているんだ。さあ、こっちへ」


 俺とキアラはヒューゴさんの案内で応接室へと向かった。

 応接室と言っても、タバーレス家の当主が客人を招くような、立派な造りをした部屋ではないのだろう――と、思っていたが、そこは大変立派な造りの応接室だった。

 派手な装飾を施された調度品の数々。

 壁には何かを描いたのかいまひとつ分からない絵画がかけられている。


 こんな凄い部屋で……一体なんの話があるっていうんだ?


「まあ、座ってくれ」


 ヒューゴさんの言葉を受けて、俺とキアラはふかふかのソファへと腰を下ろす。それから、俺たちと対面になる形で、ヒューゴさんも反対側のソファへと腰かける。

 そして、すぐさま話し始めた。


「君たちが持ってきてくれたあの野菜だが……素晴らしかったよ。珍しい品種であるのに加えて味や追加効果まであった。正直、これまで食べたどの野菜よりも素晴らしいものだったと断言できる」

「あ、ありがとうございます」


 大貴族であるタバーレス家のシェフからそこまで褒めてもらえるなんて……思わず頬が緩んでしまう。


「そこで、私は君たちの育てた野菜を、今後もこの屋敷の料理に使いたいと思っているのだが……仲介役はライマル商会でいいかな?」

「は、はい」

「そうか。彼もまた、信頼できる男としてカルバン様も気に入っておられるから安心だな」


 これって……つまりは商談ってことか。


「や、やったわね、ベイル」

「あ、ああ」


 ボソッとキアラに小声でささやかれたが、俺は緊張と興奮でそう返すのがやっとだった。


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