第45話 瓜二つ

※次回より不定期投稿となります。





 タバーレス家の厨房。

 ヒューゴさんの案内で、少しそこを見学させてもらうことになった。


 一言で例えるなら――「戦場」だ。


 料理長を務めるヒューゴさんを中心に、総勢十名以上のスタッフが慌ただしく仕事をしている。


「さすがはプロね。みんな手際がいいわ」

「本当だな」


 俺たちはそもそも料理をほとんど作らないからな。うちの料理担当は冒険者でもあるマルティナに一任しているし――


「…………」


 マルティナの姿が脳裏に浮かんだ直後、俺はヒューゴさんから目が離せなくなった。それはキアラも同じようで、ジッと見つめていた。

 ということは……俺と同じことを考えているのだろう。


 料理長ヒューゴさんの動き――俺たちはよく見ている気がする。

 そう。

 うちの厨房を一任しているマルティナの動きとそっくりだったのだ。


「ね、ねぇ、ベイル」

「キアラ……言いたいことは分かっている」

「あっ、やっぱり? ……マルティナって、ヒューゴさんの弟子だったのかな」

「弟子、か……」


 それは少し違うと思う。

 現に、実際厨房で一緒に働いている、ヒューゴさんの弟子の料理人たちの動きは微妙に異なっている。思わずヒューゴさんの背後にマルティナの姿を重ねてしまうほどの一体感がないのだ。


 あそこまで瓜二つの動きができる。

 きっと、長い間、すぐ近くでヒューゴさんの近くでその仕事の様子を見つめてきたからこそ、あそこまで動きが重なるのだろう。一朝一夕ではできないシンクロぶりだ。


 そこから導きだした俺の答えは――


「俺は……マルティナとヒューゴさんは親子なんじゃないかって思うんだ」

「お、親子!?」


 さすがにこの推察にはキアラも驚いたようだが……俺は割と可能性が高いんじゃないかと見ている。

 それに、マルティナがここへ来ていないのが気になる。

 キアラが学園に行く時も同行したマルティナが、ここへは来なかった。断る時も、なんだか歯切れが悪かったし。

……好奇心旺盛なマルティナが、貴族という存在に臆して遠慮したとは考えづらい。だとしたら、まったく別の理由でここへの同行を断ったと見ていいだろう。


 まあ、まずはヒューゴさんとマルティナの関係性をハッキリさせておかないといけないけど。


「でも……顔はあんまり似てないわよ?」

「……母親似なのかも」


 それもちょっと問題なんだよな。



 厨房の多忙さはなかなか解消されそうにないので、俺とキアラは外に出てみることにした。

 あまり厨房から離れると怪しまれるので、中庭辺りを眺める程度にとどめておいたのだが――その時、遠くに見える道から馬車が迫っていることに気づいた。


「どうやら、お客さんのお出ましみたいだ」

「そのようね」


 舞踏会に参加する貴族たちが、この屋敷に集まりつつあるようだ。

 最初に到着した馬車――そこに記された紋章に見覚えがあった。


「あれは……」


 ……そうか。

「うち」も貴族だからな。

 招待されていてもおかしくはない。

 しかも、馬車から下りてきたのは――


「これは……ややこしいことになりそうだぞ……」


 学園でもひと悶着あった、従弟のディルクだった。

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