第43話 タバーレス家へ

 肉食性植物の使役。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では不可能だったことが、ここでは実現する。その可能性に気づいたことで、ここでの生活はより楽しく、エキサイティングなものになりそうだ。


 ――とは言うものの、俺がやることが農業であることは変わらない。

 竜樹の剣の本来の役割は、その農業に特化した能力にある。

 そこだけははき違えないようにしないとな。




「さて、と……こんなものかな」


 その日の早朝。

俺はタバーレス家へ届ける野菜を籠に詰めると、グレゴリーさんが持ってきた馬車の荷台に乗せていった。


「本当にやってのけるとは……」


 どうやら、グレゴリーさんは俺が野菜を用意できなかった時のための代用品も考えていたようだが、それは無駄に終わってしまったようだ。

 まあ、実際普通の農家だったら用意できないだろうし、グレゴリーさんが慎重になるのも理解できる。だからこそ、今回の件を通して俺への信頼度が高まった――そう思いたいところだな。


「もちろん、味も保証できますよ」

「ははは……本当に凄いな」


 語彙力が行方不明となっているグレゴリーさんを横目に、すべての野菜を積み終えるとそのまま荷台に乗り込み、出発を待った――と、


「失礼するわ」


 俺のすぐ横に腰を下ろして座ったのはキアラだった。


「ど、どうしたんだ?」

「この状況でそれを聞く? あたしもついていくの」

「キアラが?」

「何? 不満?」

「い、いや、そうじゃなくて……学園のレポートは?」

「……気分転換よ」


 少し間があいたことが気になったが……まあ、その辺はうまくやるだろう。それにしても、


「キアラだけ? マルティナは?」

「あの子ならダンジョンへ行ったわよ? ……意外よね?」

「あぁ……意外だ」


 てっきり、「キアラちゃんが行くなら私も行きます!」と言って同行すると思ったのだが……。


「一応聞いたのよ? でも、今日はダンジョンに潜るって」

「今回は相手が貴族だからなぁ……ちょっと尻込みしているのかも」


 詳しくは聞いていないが、冒険者をしているということはマルティナも平民だろう。キアラは魔法研究の第一人者であるスラフィンさんの娘だから、舞踏会の類は慣れているだろうし、俺は俺で元貴族だから別に気負うことはない。……まあ、元家族には会うかもしれないが。逆に「今は楽しく暮らしている」とアピールしてやってもいいかな。


「来られないなら、せめてお土産でも持って帰りましょうよ。ハノンやシモーネだって貴族の食事は興味あるでしょうし」

「そうだな」


 ハノンもシモーネも、食に対する関心は高かった。

 そんなふたりが貴族の食事なんて食べたら――と思ったが、マルティナの作る料理も負けないくらいおいしいんだよな。素朴て温かい、まさに家庭の味って感じがして、俺は前の家の食事よりずっと好きだ。


「よーし、そろそろ出発するぞー」

「「はーい」」


 グレゴリーさんの呼びかけに揃って返事をすると、馬車はドリーセンの町とは逆方向へと進んでいった。


 移動時間はおよそ一時間。

 それまで、のんびりと新しい景色を満喫させてもらうとするかな。

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