第42話 ベイル強化案
ダンジョン探索を終えてツリーハウスへ戻ってきてすぐ、俺は部屋にこもってさまざまな関連書物を漁った。
「大型の肉食性植物を使役することができれば……農業特化の竜樹の剣であっても戦闘に参加できるかもしれないな」
とはいえ、だからといって冒険者に転向するわけじゃない。
自衛と好奇心。
このふたつが俺を突き動かしていた。
まあ、割合としては後者の方が強い。
なんていうか……ワクワク感があるんだよなぁ……モンスターを使役するのって。
しかし、現実はなかなかに厳しそうだ。
まあ、普通は使役するとなると、動物系のモンスターが主流だろうからな。竜樹の剣のような農業特化なんて特殊すぎる能力を持った剣の力で使役しようって考えるヤツはいないだろう。そもそも、俺だってキアラが言わなかったら、きっと思いついてさえいないと思う。
逆に、だからこそやりがいがあるとも言い方もできる。
前例のないことへの挑戦。
まさに今やっているダンジョンでの農場運営がそれだ。
とにかくまずはやってみる。
いろいろと悩むのは失敗してからでいい。
「とはいうものの……どんなモンスターがいいかな?」
大本命はアルラウネ――だが、うちにはもういるし、戦闘用というより農場管理に尽力してもらうので却下。あと、個人的な趣味として、もっと見た目から「いかにも」って感じのモンスターがいい。ハノンの場合はモンスターらしさよりも可愛さが勝ってしまっているからダメだ。
「このラブレジアって植物いいな。――でも、広範囲にわたって強烈な腐敗集がするって書いてある……さすがに食欲を減退させるような臭いを放つヤツを置いておくわけにはいかないか」
肉食性植物の図鑑を眺めながら、ああでもないこうでもないとセルフ議論を繰り返す。
そのうち、
「ご飯の用意ができましたよ~」
一階から響き渡るマルティナの声。
むぅ……もうそんな時間か。
窓を見ると、地底湖の湖面に、大きく開いた天井から差し込む月の光が反射している。
「今行くよ!」
大声で返事をしてから、俺は部屋を出た。
すると、ちょうど部屋を出て一階まで下りてくる途中のキアラと遭遇する。
「どう? どんな植物にするか決まった?」
「それがまだ全然。迷っちゃって決められないんだ」
「意外と悩むタチなのね」
「意外っていうのは余計かな」
細かく考えず、行き当たりばったりみたいな性格だと思われていたらしい――が、あながち間違ってはいないため、真っ向から否定する気はなかった。
一階へつくと、マルティナと竜人族の少女シモーネがお皿を出したり、食器を並べたりと最後の準備の真っ最中だった。
「手伝うよ」
「あたしも!」
そこに、俺とキアラも加わる。
それからしばらくして、外からハノンが戻ってきた。
「さて、今日もよく働いたのぅ」
「働くって……ハノンは畑で寝ていただけじゃないの」
「子どもは寝るのが仕事じゃ」
「子どもっていう割には知識とか豊富じゃない?」
「まだ種子だった頃、両親の記憶で大体の知識は身についておる。とはいえ、鵜呑みはできんので実際にいろいろと見聞きしなければならんがな。両親とて間違った知識を持っていないとも言えんしのぅ」
「なんてマセた子どもなの……」
そんな調子で、今日もにぎやかな夕食は続く。
……うん。
この代えがたい時間を守るためにも、人任せではダメだな。
やはり、俺自身が強くならなくちゃ。
今日の夕食はおいしくて楽しいだけでなく、俺に新しい決意を胸に宿す時間となった。
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