第41話 強敵現る

 このダンジョンのヌシかってくらいの大物が、俺たちの前に立ちはだかった。


「こいつ!」


 炎魔法を無効化されたキアラはムキになって連発しようとする。

 だが、それでは魔力を無駄に消費するだけだ。


「落ち着け、キアラ」

「そうですよ、キアラちゃん」

「大丈夫よ! 次は絶対に当てるから!」


 鼻息荒く、キアラは再び炎魔法を放つ――が、これも難なくかわされてしまい、不発に終わった。


「!? つ、次こそは!」

「よせって!」


 さすがにこれ以上は見ていられない。

 俺はキアラが握る杖に手を添えて、それをゆっくりと下げた。

 その際、一切の抵抗がなかった。

 ……恐らく、キアラも内心では理解していたのだろう。

 ただ、悔しさから、一度振り上げた攻撃の手を下ろすタイミングを見失っていただけだ。


 キアラはひとりではない。

 俺とマルティナ――ふたりも仲間がいるんだ。

 ひとりで敵わない相手なら、複数で挑めばいい。

 モンスターとの戦闘に、正々堂々なんて考えはいらないからな。


 ――なんて言っている間にモンスターの方が攻撃を仕掛けてきた。

 今度は糸ではなく、体毛を飛ばしてくる。

体毛と言っても、ヤツの体毛は一本一本が針金のような強度で、おまけに先端が尖っている。さらにそれには猛毒が塗られており、ちょっとでも触れようものなら痺れて動きが取れなくなってしまうだろう。


 思っていたよりもずっと戦いづらい相手かもしれない。

 特にあのスピードだ。

 あれに俺たちは翻弄されている。

 キアラの魔法もそうだが、マルティナの剣技も当たらない。もっと踏み込み、距離を詰めればいいのだが、向こうからのカウンターに対処できるかどうか……それなら、


「ヤツの動きを封じる!」


 俺は竜樹の剣を構えて前に出る。

 マルティナと初めて会った時のように、敵の動きを封じることなら俺にもできる。


 魔力を込めた竜樹の剣を地面へと突き刺し、そこから植物の根を張り巡らしていく。何が起きているのか把握していないクモ型のモンスターは、依然としてこちらの動きを読もうとジッとしているが――それが運の尽きだ。


 ボゴッ!


 そんな音がダンジョン内に響いたかと思った直後、地面から無数の蔓が伸び、あっという間にモンスターの巨体を縛りあげる。突然の事態にパニックとなったモンスターは蔓を振り払おうと暴れるが無駄な抵抗だ。暴れれば暴れるほど、蔓はヤツの体に食い込んでより身動きが取れなくなる。


「さすがです、ベイル殿!」

「やるじゃない!」

「俺にできるのはここまでだ。――後は頼んだぞ」

「お任せを!」

 

 そう言うと、マルティナは勢いよく駆けだし、あっという間に距離を詰めると、クモ型モンスターの額に剣をつきたてた。

 緑色の血をまき散らしながら暴れ狂うモンスターであったが、やがて力尽き、その場に倒れ込むと動かなくなった。それを確認してから、マルティナは額に突き刺した剣を抜き取り、緑色の血を振り払うように、ブン、と剣を振ってから鞘へとおさめる。


「お見事だな」

「相変わらずいい動きをするわね」


 俺とキアラはその動作に思わず拍手していた。


「これもすべてはベイル殿の助けがあったからですよ」

「確かに、いい働きだったわね。戦闘向きじゃないって話だったけど……超大型の食虫植物でも扱えれば、普通に戦えそうじゃない?」

「戦闘用植物か……」


【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では、敵モンスターとして遭遇するが……なるほど。俺が育てれば、こちらの言う通りに動くかもしれない。


 率先して戦闘に参加するつもりはないが、自衛の意味でそういった植物を手持ちに入れておくのは悪くないな。

 今度、ちょっと調べてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る