第40話 気ままな探索
俺はマルティナたちに同行し、ダンジョンを探索することにした。
これまでなら断っていただろう――が、探索に慣れてきたマルティナたちの頼もしさに加えて、竜樹の剣の新たな可能性を確認するため、一緒に行くことを決めたのだ。
「それで、今日はどこへ行くんだ?」
「西側を探索してみようと思うんです」
「あそこって確か……結構強めのモンスターがいたわよね」
「今日はベイル殿もいるから大丈夫ですよ!」
「そうは言うけど……俺なんてそんな役に立つとは思えないけど?」
「でも、あの時は私を助けてくれましたよね?」
あの時――それは、俺とマルティナが初めて出会った時のことだ。
俺も必死だったから、なんとか抵抗をしたけど……おかげで、この竜樹の剣にはゲームとは違った使い道があることに気づいた。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では、農業特化した力しか発揮できない竜樹の剣だが、ここではその縛りはないのだ。
もっと自由に、この剣を使える――これは竜樹の剣に限ったことではない。
ゲームの中ではこうだからという先入観を捨て、そのアイテムが持つ能力を最大限に発揮できるよう、頭を使わないとな。
俺たち三人は肩を並べ、ダンジョンを歩く。
発光石の淡い光に照らされる中、ふたりにこれから向かう場所についていろいろ聞いてみることにした。
「手強いモンスターがいるって話だが、実際どうなんだ?」
「手強いって言っても、そこまで警戒しなくていいんじゃない?」
「でも、何が起きるか分からないのがダンジョンですからね。警戒のしすぎということはないと思います」
キアラは余裕の発言。
一方、マルティナは警戒を怠っていない。
この辺が、冒険者としてのキャリアの違いってわけか。
まあ、キアラはまだ学生とはいえ、魔法使いとしての資質はかなり高いってことは分かった。しかし、だからこそ油断は大敵。実力を存分に発揮するためには、状況を把握することも大切だ。
――と、いうアドバイスでも送ろうかって時、
「! 気をつけてください! 近くにモンスターの気配があります!」
マルティナが叫ぶ。
同時に、俺とキアラはそれぞれの武器を構えた。
さすがに、非常事態となれば表情が引き締まるな、キアラは――って、俺がのんびりしているわけにはいかない。間違いなく、このメンバーの中で最弱は俺なんだ。足を引っ張らないよう、サポートに徹しなくては。
臨戦態勢をとる俺たちの前に現れたのは――超巨大なクモだった。
「でかっ!?」
「ていうか、キモい!?」
俺とキアラはその外見のインパクトに思わず腰が引ける。
昆虫が特別苦手じゃない俺でも、あの大きさはさすがに顔が引きつった。
その一方、
「昆虫型のモンスターは動きが機敏ですから注意してください! あと、口から粘着性の強い糸を吐いて動きを封じてきます! そちらにも気をつけて!」
マルティナから、実に明確な説明が入った。
そのハキハキとした喋りと凛とした眼差しを見ると、こっちも「やってやるぞ」って闘争心が湧いてくる。なんというか、リーダー向きの性格をしているな、マルティナは。
「アレが例の手強いモンスターってわけか……」
「ふ、ふん! 相手が昆虫なら、炎で灰にしてやるわよ!」
キアラは武器としている杖に魔力を込める。
属性は炎。
さっさと勝負をつけるつもりらしい。
「くらいなさい!」
杖から放たれたキアラの炎魔法は、矢のように鋭く伸びてモンスターに――当たらなかった。
「なっ!?」
信じられないといった表情のキアラ。
無理もない。
こちらの想像以上に、相手の動きは速かった。
これは……苦戦必至って感じだな。
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