第38話 新たな作物
グレゴリーさんからの依頼を受けて、二週間以内にタバーレス家へ届けるための新たな野菜を育てることになった。
まあ、どのみち畑を広げようと思っていたから、そのついでに取り組んでみようってことなんだけど。
「貴族への献上品というわけか」
「うーん……一応、料金は払ってくれるらしいから、献上品とは違うのかな?」
農場を管理するアルラウネのハノンとそんな会話を繰り広げながら、俺は竜樹の剣に魔力を込めた。固い石があちこちに転がるダンジョン――現状では畑どころか歩くことさえ気を遣うほどの荒れ地となっている。
だが、それもこの剣の力があれば労せずに整地可能。
改めて、竜樹の剣を授かってよかったと思うよ。
「それで、どんな野菜をご所望なんじゃ?」
「えぇっと、リストによれば……」
俺は育てる野菜を確認するため、再びリストへと目を通した。
それによると――
カボチャ。
ジャガイモ。
タマネギ。
以上の三つだ。
どれもポピュラーな野菜なので、すでに種を記憶し終えている。これがマイナーな野菜だったら危なかったな。
整地を終えると、ウッドマンたちとともに畝を作る。
すでに栽培しているフレイム・トマトやサンダー・パプリカ同様、俺が育てるのは普通の野菜ではない。味はもちろん、魔力回復だったり、その他のプラス要素がある作物なのだ。
その名を、
アイス・パンプキン。
ヒール・ポテト。
ストーム・オニオン。
という。
アイス・パンプキンとストーム・オニオンはそれぞれ氷と風属性の魔法に対して能力向上の効果があり、ヒール・ポテトは疲労回復に抜群の逸品。
これらの野菜は専属契約を結んでいる大規模農場でのみ栽培されるもので、基本的に市場には出回らない貴重な作物ばかりだ――が、俺はそれらの種をすでに入手済み。竜樹の剣に記憶させたことで、これからは自由に手に入るのだ。
なぜ、俺が貴重な野菜の種を持っているのか。
答えは簡単だ。
――オルランド家の屋敷を出る時、ちょっと拝借したんだよね。
おかげで、今回の仕事はうまくいきそうだ。
「キキーッ!」
ウッドマンたちの中でリーダー的な存在であるトッドが、俺の上着の袖を引っ張りながら何かをアピールしている。振り向くと、そこにはしっかりとした畝がすでに完成していた。
「よくやってくれた、みんな」
「「「「「キキキーッ!」」」」」
主人である俺から褒められて、喜び合うウッドマンたち。
うんうん。
実に癒される光景だ。
彼らの頑張りに応えるためにも、しっかり野菜を育てないとな。
「さて、それじゃあ……そろそろやるか」
俺は竜樹の剣を構える。
一見すれば、子どものおもちゃのようにも見えるそれだが、その能力はハンパじゃない。
それを――証明する!
俺は魔力で生み出した野菜の種をウッドマンたちに手渡し、彼らはそれを手際よく植えていく。すべてが終わると、地底湖を満たす聖水をたっぷりと浴びせた。
ちなみに、ちょうどシモーネがドラゴンの姿で水浴びをしており、そのこともあってかいつも以上に魔力が濃い。
「……シモーネの出汁か……」
思わず口にするが、あまりにも変態的発言だったため、すぐに首を振って消し飛ばす。
ま、まあ、通常よりも多く魔力が含まれているのだから、文句の言いようはないだろう。
すべての作業を終えると、ちょうどマルティナとキアラがダンジョン探索から戻ってきた。
「ただいま戻りましたぁ……」
「ただいま~……疲れた。お風呂入りたい」
一日中探索したことで疲れ切っているふたりは、バブル・バーベラの葉から抽出した特製のボディソープを持ってツリーハウス内にある風呂場へと直行した。
「やれやれ……お疲れのふたりにおいしい料理を作るとするか」
「ワシも手伝おう」
「あっ、私も手伝います!」
俺とハノン、そして人間形態に戻ったシモーネはマルティナとキアラの背中を追う形でツリーハウスへと帰宅。
さあ、今日の夕食のメニューは……どうしようかな。
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