第35話 飼育準備
シモーネの生活用品とグレゴリーさんから譲り受けた鶏と山羊。
それらを荷台に詰め込んで、ダンジョン近くまで運ぶと、それを少しずつみんなで協力をして降ろし、地底湖にあるツリーハウスへと移した。
「それでは、私は馬車を戻してきます」
「悪いな、マルティナ」
「いえいえ!」
そう言って、マルティナは再び馬車へと乗ると、ドリーセンへ向けて出発した。
それにしても……馬車か。
うちにも馬がいればなぁ。
自前で用意するのは難しそうだ。
そもそも、ダンジョンで飼育できそうにないし。
「うーん……」
俺は足元を強く踏みしめてみる。
ダンジョン内でも動きやすいよう、冒険者用の靴に買い替えているが、それでもゴツゴツとした感触には薄っすら痛みを覚える。これでは、馬を放牧したところで望ましい環境とはお世辞にも言えないな。
「いっそ石とか全部どけて、ここを全部芝生にできないかな」
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では可能だが、あれはあくまでもゲームの中での話。
現実問題として、芝生は竜樹の剣の力でどうにかなるが、これだけ広大な土地をまっさらに整地するのは専門知識のある業者にでも頼まない限り難しい。それでも、さすがにこの広さ荒れっぷりを目の当りにしたら、仕事を断る人が多そうだけど。
まあ、その辺は後々考えるとして、今は俺にできることをやろう。
馬を放牧させるほどのスペースは確保できないが、鶏や山羊ならば問題ない。すでに用意してあった畑の横の空き地に、シルバークックや山羊を入れる。
ちなみに、どちらもすっかりシモーネに懐いていた――というより、服従しているような感じにさえ見えるな。
それから、三頭いる雌の山羊の品種だが、これらはすべてネイザン種という品種で、雌は主に乳用として飼育されている。いずれはそれを利用してオリジナルのチーズを作ってとみたいな。
「夢は広がる一方だなぁ」
「それは喜ばしいことじゃのぅ」
突然背後から聞こえてきた声に驚いた俺は、一瞬体をビクッと強張らせる。
「ハ、ハノン? どうしたんだ?」
農場の管理を任せているハノンは不満そうに語る。
「すでに野菜から家畜へと関心が移ったような気がしてのぅ」
「そ、そんなつもりは――あっ」
「? なんじゃ?」
俺は畑にできたある物に対して声をあげ、それにハノンも関心を示した。
「バブル・ガーベラの花が咲いているんだ」
素材として利用できるアイアン・コスモスの横にあるバブル・ガーベラが花を咲かせていたのだ。
「これはちょうどいい。早速この葉っぱを回収しよう」
「葉っぱを?」
「ああ。こいつの葉はすり潰すと泡になるんだよ」
その泡を体につけて洗い流せば――なんとびっくり、ボディソープへと早変わりする。おまけにシャンプーとしての効果もあって、一挙両得だ。
この世界のボディソープやシャンプーっていうのは高いからな。畑で栽培できれば経済的に大きなプラスをもたらす。試しに指で葉を少しちぎり、それを押し潰してみた。すると、モコモコと泡立ってくるではないか。
「成功だ」
「その泡がなんだと言うのじゃ?」
「今日の夜にも分かるよ」
アルラウネのハノンにはよく理解できないようで、首を傾げていたが、少なくともマルティナとキアラは喜ぶだろう。
すると、その時、
「ちょっとぉ、荷物整理するの手伝ってよぉ」
キアラの助けを求める声が響き渡った。
「そうだった。早く手伝いに行かないとな」
俺はシモーネとハノンを連れて、ツリーハウスへと戻っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます