第34話 シルバークック
商会の店にたどり着くと、外でグレゴリーさんが待っていた。
「待っていたぞ、ベイル」
「グレゴリーさん!」
俺たちがグレゴリーさんに駆け寄ると、そのそばには馬車があり、荷台にはいくつかの籠が二十個あった。そのうちの十個の籠には――銀色の体の鶏が。
「こいつが君に譲るつもりの鶏だ」
「これって……シルバークックですか!?」
シルバークック。
その卵は絶品とされ、王宮の献上品としてもよく名を聞く。
ただ、こいつの飼育にはちょっとした難点が。
「でも、確かシルバークックって……」
「おっ? どうやら知っているようだな。――そう。こいつは非常に気性が荒いんだ」
そうなのだ。
シルバークックは非常に荒っぽい性格で、雌であっても四六時中暴れまくっているらしい。そのため、気がつくと傷だらけになっており、それが原因で死んでしまうのだ。こうした理由から、シルバークックの飼育は一日中気が抜けず、交代で見守れる大規模な牧場でしか育てられないと言われている。
「知っています。飼育はかなり困難だとか」
「その通りだ。こいつは知り合いの牧場で飼われていたものだが、どうにも手に負えなくなってしまったらしくてな。そいつを譲ってもらい、取り引きをしている大きな牧場へ売ろうと思っていたが……君たちはドラゴン問題を解決した功労者だ。もし、育てられる自信があるというなら、タダで譲ろうと思ってな。もし自信がないというなら、こっちの普通の鶏を持っていくといい」
「えっ!?」
シルバークックがタダ?
それは凄い!
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では、購入できる条件も限られる上、その金額はとんでもなく高額。それが無料って言うんだから、この話に乗らないわけにはいかない。
あとはこの凶暴な鶏たちをどうやって手懐けるかだ。
今も鉄製の籠が壊れてしまうんじゃないかってくらい大暴れしている。
大きさも、普通の鶏よりデカいし……こりゃちょっと難しいかな。
あきらめかけた――その時だった。
「わぁ、可愛い鶏ですねぇ」
シモーネが籠に入ったシルバークックを眺める。
危険だぞ、と注意しようとしたら、
「「「「「…………」」」」」
さっきまで猛り狂っていたシルバークックたちが突然静まり返った。
「えっ? なんで?」
「ど、どうしてでしょう……」
「うぅむ……なぜじゃろうなぁ」
キアラ、マルティナ、ハノンの三人は豹変したシルバークックの様子を不思議そうに眺めていた。
……これは俺の勘なのだが、恐らくシルバークックたちには見えていたか、或いは本能が教えたんじゃないだろうか――シモーネの真の姿を。
愛らしい女の子の姿の背後に、遥に巨大で恐ろしい水竜の姿が。
「……なあ、シモーネ」
「はい?」
「この鶏たちの世話を任せてもいいかな?」
「! よ、喜んで!」
水竜シモーネは鶏の世話係を喜んで受けてくれた。
その後、俺たちは山羊もグレゴリーさんから譲り受け、飼育する家畜を確保。
さらに、新しくツリーハウスで生活するシモーネのために、いろいろと必需品を購入して準備を整えた。
竜人族でありながら、これまで、ほとんどの時間をドラゴンの状態で過ごしていたというシモーネは、人間の生活に興味津々で、アイテムを揃えた他、家畜の世話係に任命されたことで仕事もできたと大喜びだった。
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