第33話 新たな挑戦
地底湖を気に入ったシモーネはそのままここへ居着くことになった。
とはいっても、常にドラゴン状態でいるわけじゃなく、普段は俺たちと同じような人間形態で過ごすらしい。
「人間の姿でいることって、ちょっと苦手だったんですけどぉ……こっちの方がみんなと一緒って感じがしていいかなって」
はにかみながら、シモーネはそう答えた。
そういったわけなので、ツリーハウスの余っている部屋を貸し出すことに。
ちなみに、シモーネはハノンと違い、人間形態の時にちゃんとした服を着ていた。これについて尋ねると、竜人族はドラゴン形態から人間形態へ戻る際、人間形態の時に着ていた服装に戻るらしい。巨大化したから服がビリビリに破れ、戻った時に裸の状態にはならないとのこと。
ただ、人間の姿でいる時間が長くなるということで、ハノン同様、ライマル商会へ服を買いに行かないとな。
とりあえず、林道のドラゴン騒動はこれにて一件落着となった――ので、俺は新たな試みを行おうとしていた。
「うぅむ……」
シモーネが正式にうちで暮らすようになった次の日の朝。
朝日に照らされた地底湖をバックに、ウッドマンたちを引き連れた俺は農場の前で唸っていた。
「もうちょっと拡大した方がよさそうだな」
フレイム・トマト、サンダー・パプリカなどが育っている農場の横に、新たなスペースを設けることにした。
こちら側では作物を育てる――つもりではない。
動物を飼育する、いわゆる畜産業を始めようと思っていた。
今のところ計画しているのは鶏と山羊。
この件については、以前からグレゴリーさんに相談しており、知り合いの伝手でいい品種を分けてもらえる手筈になっていた。
で、昨日、シモーネの件が解決した後、商会の使いという者がグレゴリーさんのもとへその知り合いが鶏と山羊を連れてきたということ伝えに来た。
すぐさま取りに向かいところであったが、「シモーネを地底湖に連れて行くことを優先させるんだ」というグレゴリーさんの言葉に従い、こちらを優先させていた。
そして迎えた次の日。
今日はこのあと、シモーネたちとともに商会を訪れ、俺は鶏と山羊を譲り受けるつもりでいる。
それまでに、簡単でもいいから動物たちを放し飼いにできるスペースを確保しておく必要があった。
「よっと」
俺は竜樹の剣を地に刺す。
すると、地面から生えてきた蔓が幾重にも結びつき、それはやがて強力な柵へと姿を変えた。鶏がつつこうが、山羊が食べようとしようが、ビクともしない頑丈な柵で放し飼いエリアを作り上げる。そのうち、鶏舎も作っておかないとな。
「朝から精が出るのぅ」
その様子を農場の管理者となったアルラウネのハノンが珍しそうに眺めていた。
「竜樹の剣といったか。それがあればまさに敵無しじゃな」
「農場に限っては、ね」
竜樹の剣。
性能を知れば知るほど、この剣は戦闘向きじゃないなって思う。まあ、物は使いようというか、応用次第ではなんとかなるのかもしれないけど……マルティナと初めて会った時に、モンスターを拘束できていたという実績もあるし。
「もうすぐマルティナたちの準備も整う頃だし、ハノンもドリーセンへ出かける準備をしといてくれよ」
「このままでも問題ないじゃろ?」
「それはちょっと問題あるなぁ……」
主に露出面に関して。
今のアルラウネは初遭遇時の格好――つまり、蔓を体に巻きつけただけの状態だった。農場で仕事をする時は、こっちの方がしっくりくるということで今の格好を許可しているのだけど……あれが作業着ってことになるのかな?
ただ、町へ出かけるとなると問題があるので、着替えてくるよう伝える。
それに対し、渋々ながら了承したハノンは、重い足取りでツリーハウスへと戻っていった。よっぽど気に入っていたんだな。
そのハノンと入れ違いになる形で、マルティナたちが合流。
特にシモーネは初めての買い物ということでとても楽しみにしている様子。
俺だって楽しみだ。
いよいよ、ダンジョン農場での畜産開始が秒読みとなったわけだからな。
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