第31話 気弱なドラゴン
竜人族の少女――その名は水竜シモーネ。
彼女が林道にいたというドラゴンなのだろうか。
改めてその件を尋ねてみると、
「あっ、それ……わ、私です……」
シモーネはとても申し訳なさそうに手を挙げた。
やっぱりか、と思う反面、彼女のようなドラゴンでよかったという安堵もあった。ドラゴンの中には問答無用に襲ってくる者もいるからな。第一印象からそんな危険性を感じていなかったが……逆にここまで気が弱いとも思わなかったが。
しかも、あの場所にいた理由が空腹で動けなくなっていたっていうんだからなぁ……人騒がせなドラゴンだよ。
「わ、私……どうなっちゃうんでしょうかぁ……」
不安げにこちらへ尋ねてくるシモーネ。
とりあえず、俺たちに敵意がないということは伝わったようだが……グレゴリーさんたちは今も血気盛んにドラゴンを捜している最中だ。いきなりこの子を「ドラゴンだ」と言って紹介したら――想像したくないな。
「……シモーネ」
「は、はい」
「とりあえず、今の状態――ああ、人間の姿のままでいられるかな?」
「それは大丈夫ですぅ」
それなら大丈夫そうかな?
急にドラゴンの姿に戻ってしまったなんてことになったら大パニックになるだろうし。
俺はシモーネにドラゴン討伐のため、多くの冒険者が近くをうろついていることを告げた。
「ふえぇ~……」
途端に涙目となるシモーネ。
その気になれば、まとめてなぎ倒せるくらいの戦闘力はあるはずだが……どうやら戦うという行為自体が苦手なようだ。
「君のことについては、俺の口から冒険者たちのリーダーであるグレゴリーさんに話しておくよ」
「あ、ありがとうございますぅ」
シモーネはお礼の言葉を口にするとともに、深々と頭を下げた。他者との交流も苦手そうな感じだったが、俺たちのことを信用してくれたみたいだ。
その後、俺はグレゴリーさんたちと合流。
水竜シモーネの正体について、やんわりと説明し、十分に理解してもらったうえで顔合わせを行った。
「ご、ご迷惑をおかけしました……」
「いやいや、何もないっていうならそれに越したことはないんだが……」
ドラゴン=凶暴というイメージがあるグレゴリーさんや冒険者たちはそのギャップに驚き、しばし唖然としていた。
こうして、ドラゴン騒動は一応の解決を見たのだった。
――と、思っていたら、
「あ、あの」
「うん? どうしたんだ?」
「この辺りに綺麗なお水が湧いている泉とかありませんか?」
「泉?」
「は、はい。できれば、ドラゴン状態の私が入っても大丈夫そうな大きさの」
詳しく話を聞くと、そもそもシモーネがここにいた理由は、もともと住んでいた泉が枯れてしまい、次の住処を探している途中だったという。その住処に適した泉がこの近くにないかとのことだったが、
「うーん……あったかなぁ?」
俺は必死に思い出す。
もちろん、それは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】のマップ情報だが……この近くにはなかったな。
「うん? 泉?」
――ある。
泉じゃないけど、それ以上に広く、何より水竜である彼女にとって住み心地抜群の場所が。
「なあ、シモーネ」
「なんでしょう?」
「ひとつ提案があるんだけど……俺たちの家に来ないか?」
「へっ?」
「見せたい場所があるんだ」
俺はシモーネにそう提案したのだった。
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