第29話 正体

「どこよ! どこにドラゴンがいるのよ!」

「影も形もありませんけど……」


 ドラゴンを発見したという俺の言葉を受けて周囲を見回すマルティナとキアラ。だが、それではいつまでたっても見つけられないだろう。

 ……ただ、勘のいいハノンはもう見つけたようだが。


「これは驚いたのぅ……」

「ああ、もう! どこ捜してもいないじゃない!」

「そうカリカリするでない、キアラ。胸が縮むぞ?」

「胸の大きさと苛立ちに因果関係なんてないわよ!」


 そりゃそうだ。

 ――って、いつまでもこのままじゃ埒が明かないので、そろそろ種明かしといくか。


「ふたりとも、あの巨木をよく見てごらん」


 俺が指さした方向へ視線を送るふたり。

 そこには、


「あれ? 誰かいる?」

「女の子……見たいですね」


 そう。

 折り重なる巨木の近くに、ひとりの少女が困り顔で立ち尽くしていた。

 ――が、よく見ると、その子は人間にない特徴を有している。

 最初に気づいたのはキアラだった。


「!? あ、あの子、尻尾が生えているわよ!?」


 思わず大声をあげてしまうキアラ。

 それに、尻尾の生えた少女は気づき、こちらの存在を視認すると慌ててその場から逃げ出した。


「あっ! ちょっと!」

「キアラ……」

「し、仕方ないでしょ! あんなの初めて見たら、誰だって大声だしちゃうわよ!」


 ハノンから送られる無言の抗議に対し、キアラは無罪を主張。

 しかし、同じく初見であるマルティナはそこまで大きな反応を見せなかったため、キアラの完全敗訴である。


 ――などと、遊んでいる場合じゃないな。

 あの子を追いかけないと。


「尻尾だけではなく、彼女の額には大きな一本角がありましたよね。あれもドラゴンのものでしょうか」


 逃げた少女を追う中で、マルティナが気づいたことを口にする。

 さすがは冒険者として活動してきただけあって、観察眼はしっかりとしているな。


「その通りだ、マルティナ」

「じゃ、じゃあ、あの子はドラゴンと人間の特徴を併せ持った子ってこと? そんな子がこの世界にいるなんて――」


 最後まで言わずに、キアラは口を閉ざした。

 恐らく、話に聞いていたことがあったのだろう。

 おまけにあの様子だと、ただの伝説とか、そんな感じで片づけていたらしく、いざ本物を前にして愕然としているようだ。


 ……それはそうか。

 俺の予想が正しければ……あの子は――


「……キアラ。君の思っている通りだと思う。……さっきの子は恐らく竜人族だ」


 竜人族。

 その名を口にした途端、キアラとマルティナの表情が強張る。


「りゅ、竜人族?」

「あの伝説の……」


 まあ、そうなるわな。

 この国だと、ドラゴンを神格化している者も多い。

 そんなドラゴンが、自分たちと近い年齢となっている……これはなかなか強烈な情報だな。


 その後も消えた獣人族の少女を追って森の中へと入っていった――その時、


「!? 見つけた……」


 小声で、悟られないよう、俺は木陰に身を潜めて様子をうかがう。

 果たして、今度こそ竜人族の少女を捕らえることはできるのだろうか。

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