第28話 消えたドラゴンの謎

 姿を消したドラゴンを捜すため、森の中へと入った俺たち。


 早速俺の心当たり――ドラゴンの巨体を隠せそうな場所を当たったが、空振りに終わった。


「どうしましょう……手分けして捜しますか?」

「これだけ広い森じゃ。それは得策と言えんじゃろう」


 ハノンの言う通りだ。

 迂闊に捜索の範囲を広げて、その結果、捜す相手が増えるという悪循環は避けたい。なので、ここは四人で行動することに。

 とはいえ、俺は【ファンタジー・ファーム・ストーリー】内で行われた、この森に関するイベントを完走している。


 お宝が隠れている場所については完璧だが……今回俺たちが捜すのは、確かな目撃情報がありながら行方不明となっているドラゴンだ。その巨体から、遠くへ行っていない限りすぐに見つかりそうなものだが……。


「……もしかしたら、もうこの近くにはいないのかもしれないな」

「でも、それならどこへ行ったっていうのよ」

「それは……」

 

 キアラの追求に対し、俺は何も答えられなかった。

 考えられる線としては、大きな翼を羽ばたかせて青空に飛び立った――くらいしかないな。


 だが、そうだとしても何か痕跡は残っているはずだ。

 あれほどの巨体が舞い上がったとしたら、翼が巻き起こした突風で木々が吹き飛んでいてもおかしくはない――が、そのようなあとはどこにも見られなかった。


「――待てよ」


 巨体。

 その言葉が、俺の頭の中で止まった。


 ドラゴンの体はデカい。

 それは常識だ。

 現に、ゲーム内で遭遇したどのドラゴンも、ざっと十メートル以上はあるものばかりであった。その常識が、俺の思考を鈍らせていたんだ。


「どうかしたんですか、ベイル殿」

「マルティナ……今度こそ、ドラゴンの居場所が分かったかもしれない」

「!? 本当ですか!?」


 俺の言葉に、マルティナだけでなくキアラとハノンも驚いた。


「……随分と自信があるようじゃのぅ」

「ああ。と言っても、特定できたわけじゃないけどね」

「根拠はなんなの?」

「根拠は――」


 そこで、言葉に詰まる。

 まさかゲームの知識なんて言えるわけないよなぁ……たぶん、みんなは理解できないだろうし。

 こういった時はアレに限る。


「勘だ」

「「「勘!?」」」

 

 そこで、三人の動きは完全に止まった。

 ……やらかしたな。

 もうちょっとマシな言い訳を考えるべきだったか。


「勘って、あなたねぇ」

「で、でも、ベイル殿の勘は当たる気がします」

「なんとなく、ワシもそう思うのぅ。キアラも、本心ではそう思っておるのではないのか?」

「うっ……」


 日頃の行いの賜物か。

 俺の言葉には妙な説得力があるようだ。

 

「ま、まあ、ベイルの勘っていうか、読みは鋭いと感じるけど」

「じゃあ、今回もその鋭い読みが発動したと思ってくれ」

「……分かったわ。何もしないまま突っ立っているよりもずっとドラゴンと巡り合う可能性は高そうだしね」


 ため息を交えながら、とうとうキアラも折れた。

 というわけで、俺たちは改めてドラゴン捜しへと向かうことに。

 目指したのは現在地から西の地点。

 歩いて五分ほどの距離にあるそこには、ゲーム内のフィールドと同じく、折り重なるようにして倒れている巨木が四本あった。


「す、凄い迫力ですね」

「え、えぇ……」


 巨木を目の当たりにしたマルティナとキアラは茫然としている。

 その時、


「む?」


 どうやら、ハノンは気づいたようだな。


「ベイルよ……もしや、あそこにいるのが?」

「はい。――ドラゴンです」

「「ええっ!?」」


 ハノンがドラゴンを発見したと口にした瞬間、物凄い勢いでマルティナとキアラの視線がこちらへと移り変わる。


「ど、どこにいるのよ!」

「それらしいモノはどこにも……」


 忙しなく顔を動かすふたり。

 だが、それでは見つかるはずもない。

 なぜなら、そのドラゴンとは――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る