第27話 ゲームイベント

 大勢の冒険者たちとともに、ドラゴンが居座っているという林道へとやってきた。


「……懐かしいな」

「えっ? 前にも来たことあるの?」

「あっ、いや、な、なんでもないよ。こっちの話」


 キアラの言葉を受け、ドキッとした俺はなんとか誤魔化す。

 もちろん、さっき言った「懐かしい」というのはゲームの中での話だ。一応、マップ上には存在しているものの、イベント開放となっており、実際にプレイできるようになったのは数年前のこと。

……俺はそんなエリアに、俺は足を踏み入れたんだ。

もう何度も体験したことではあるけど、感慨深いな。


 そう考えると、この世界にはまだ【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中において、イベント開放となっているエリアがいくつか存在していることになる。


 とはいえ、数自体はそう多くはない。


 何せ、もうリリースされて何年も経つ長寿タイトルだ。

 中には最近のイベントについて「時間稼ぎ」だの「蛇足」だの、ひどい言われようだった。実際は断じてそんなことはない。だからこそあれだけ長くファンから愛されるゲームとなったんだ。


 ……って、ゲームの話はこれくらいにして、本題に入ろう。

 俺たちは林道をひたすら進む。

 ゲーム内におけるこの林道の立ち位置は、いわば「宝探し」に近い。

 倒れた巨木や変な形の大岩など、進みづらいマップではあるが、あちらこちらに隠れるポイントがあって、そこにアイテムが落ちている。それを集めるのが、この林道が実装された際のイベント内容だ。


 しかし、今回は捜す必要のない巨体を持ったドラゴン。

 すぐに見つかるだろう――そう思っていたが、


「? おかしいな……」


 考えたら、ドラゴンってかなり大きいんだよな。

 それなのに、未だにその気配さえ感じない。

 

「変ねぇ……どこにもいないじゃない」

「もっと奥でしょうか……?」


 キアラとマルティナも異変を察したようだ。

 当然、先頭を行くグレゴリーさんも気づく。


「どういうことだ!? なぜドラゴンがいない!?」


 そう。

 いるはずのドラゴンは、その影さえもなくなっていた。


「情報ではこの辺りのはずだよな?」

「は、はい。複数の目撃者がいますし、まず間違いないかと……」


 冒険者のひとりが額の汗を拭いながら伝えた。

 周りが騒然となる中、俺はある痕跡を発見する。


「グレゴリーさん!」

「うん? どうした、ベイル」

「この場所だけ、木や草の倒れ方が不自然なんです」

「! ほ、本当だ……これは自然にできたものではないな」


 しかも、折れている木の様子から、まだそれほど時間が経過していないように思える。 

 それがドラゴンであるかは定かでないが――何か、巨大なモノがここに存在していたことは明らかだ。

 だた……待てよ。


「これって……ゲームのイベント内容と一緒?」


 お宝探しイベも、確かこんな感じでスタートしたような……だとしたら、ゲームで宝箱が隠されている場所に、ドラゴンがいる?

 でも、ドラゴンと宝箱では明らかにサイズが合わない。

 まさか、何らかの原因でドラゴンが急速に縮んだ、とか?

 ……さすがにそれはないか。


 俺が悩んでいるうちに、グレゴリーさんが冒険者たちへ指示を飛ばした。


「よし! この周囲を捜索するぞ! あと、最初にドラゴンを見つけた者には金貨を一枚くれてやる!」

「「「「「うおっす!」」」」」

 

 野太い冒険者たちの声が合わさったかと思うと、散り散りとなって消えたドラゴンの行方を追う。


「わ、私たちも行きましょう!」

「ですね!」

「そう慌てるでない」


 走りだそうとするキアラとマルティナの服の裾を掴んだのはハノンだった。


「早く捜さないと金貨をもらい損ねるわよ!」

「そうですよ、ハノンちゃん!」

「だからそう慌てるなと言うておるじゃろ。――ワシらのリーダーに、何か妙案があるようじゃぞ?」


 ハノンから飛んできた、まさかのキラーパス。

 俺の素振りから、何か考えていると踏んだのだろう。

 意外とするどいな、このアルラウネは。


「……明確にここだと断言はできないけど、少し心当たりがあるんだ」


 俺は三人にそう告げてから、探すポイントを説明する。

 とりあえず、最初はゲームのイベントに沿う形で当たってみよう。

 そうすれば、消えたドラゴンの謎を解明できるかもしれないからな。


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