第25話 思わぬチャンス?
「俺がドラゴンを!?」
グレゴリーさんが冒険者ギルドへやってきた目的――とあるクエストを申請するためにやってきたと思ったが、まさかドラゴン退治とは思わなかった。
しかも、グレゴリーさんは俺ならそのドラゴンを倒せると思っているらしい。
さすがにそれは無理だ。
俺の竜樹の剣は確かに優れた力を秘めている。おまけに、ドラゴンの亡骸から生えてくる木を利用して作られたという話から、ドラゴンにまったく無縁というわけではない――のだが、それはあくまでもアイテム誕生にまつわる話だし、そもそも能力面において優れているのは農業に関してだけ。こと戦闘にいたっては正直役に立つとは思えなかった。
ましてや、相手は並外れた戦闘力を持つドラゴン種が相手となったら、相当な戦力で挑まないといけない。
俺はグレゴリーさんとフェリックスさんが話し合っている間に、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】内におけるドラゴンの位置づけを思い出す。
スローライフを満喫するこのゲームだが、その中にドラゴンという単語は存在し、実際にプレイヤーの前へ姿を現す。
しかし、そこでのドラゴンは言ってみれば依頼主という立ち位置だった。
プレイヤーは世界各地に存在する、人と言葉を交わせるドラゴンから依頼された作物を育て、それを届けるといったもの。
ゲーム内に登場するドラゴンは全部で五種類いて、それぞれが属性に特化したドラゴンである。
例えば炎竜というドラゴンならば、依頼を達成したその報酬として炎属性にまつわるアイテムや魔法をくれるのだ。
――と、ゲーム内におけるドラゴンの仕様を思い出した直後、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
今回のドラゴンも……こちらへ何か依頼を持ちかけようとしているのではないか。
か細い希望だが、それを見極めるためにも、フェリックスさんからもう少し情報を提供してもらう必要がありそうだ。
「あ、あの、フェリックスさん」
「うん? なんだい?」
「ドラゴンを退治するって話ですが……そのドラゴンは大暴れをしているとか、そういう悪事を働いているのですか?」
「そういうわけじゃないんだ。ただ――」
フェリックスさんはドラゴン討伐に至るまでの経緯を説明してくれた。
それによると、ドラゴンはここから北へ進んだ林道に居座っているのだという。
動くこともせず、ただジッとその場を動こうとしない。
今のところ、人が襲われたとか、そういった実害こそないが、困ったことにその林道は別の大都市とドリーセンの町を結ぶ重要なルートのひとつであった。さすがに生きたドラゴンが横たわるその林道を通って移動する者はいないだろう。
他のルートを使えば往復は可能と言えば可能だが、かなり大回りとなってしまうため、このままドラゴンが移動せずに居座り続ければ、ドリーセンで商売をする者の数は着実に減っていく――つまり、町の経済が停滞してしまうのだ。
それこそが、グレゴリーさんの『俺も無関係ではない』という言葉につながってくるのだろう。
「……俺たちにとっては死活問題ですね」
「だろう? だからとっとと始末したいのだが――」
「説得をしてみてはどうでしょう?」
「「説得?」」
グレゴリーさんとフェリックスさんが顔を見合わせる。
その発想はなかって表情だが、
「ヤツに説得なんて通じるのか――というか、我々の言葉を理解できるのか?」
問題はそこだ。
ゲーム内でドラゴンが出てくる位置はランダムであり、一応、このドリーセンの町の近くにも出現するスポットはある。ただ、そこが例の林道がどうかは不明だし、そもそも別のドラゴンである可能性も否定できない。
いずれにせよ、「行って実物を見なければ何も言えない」というのが結論だった。
とりあえず、俺はグレゴリーさんにドラゴン討伐へ同行する旨を伝える。
「では、明日の朝にまたこのギルドへ来てくれ」
「分かりました」
そういったわけで、明日そのドラゴンと対面するわけだが……これもひとつのチャンスだな。
もしそのドラゴンがゲーム内に出現するドラゴンであれば、凶暴な性格ではなく、賢くて人間に友好的なはず。
果たして、どんなドラゴンなのか……ちょっとワクワクしてきたな!
――っと、その前に、グレゴリーさんにはこの件についてよく話しておかないといけないな。
下手に攻撃して相手の怒りを買うわけにはいかないし。
よーし、面白くなってきたぞ!
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