第23話 みんなでお出かけ
午後からはアルラウネのハノンを連れてドリーセンの町に買い物へ行くことにした。
収穫した作物をライマル商会に届けつつ、ハノンの生活に必要な物資(主に服)を調達するのが目的だ。
「おおっ! 凄いのぅ!」
町へ到着するや、ハノンはその様子を見て興奮し、今にも駆けだしそうな勢いだった。
ちなみに、服はマルティナの着替えを臨時で拝借している――が、サイズが合っていないのでダボダボだ。特に胸周りとか、むしろキアラの方がサイズ的に誤差が少ない気がするんだけど。
「……今、何かとても失礼なことを考えていなかった?」
「!? べ、別に、何も」
「そう……」
な、なんて勘が鋭いんだ、キアラ。
これからは注意しないとな。
「と、とにかく――ハノン」
「なんじゃ?」
「はぐれないようにしっかりついてきてくれよ」
「分かっておる!」
そう言うが、ハノンの視線はこちらをまったく見ていない。
よほど町の喧騒が気に入ったようだ。
ツリーハウス周辺はモンスターもいなくて静かだからな。
瞳を輝かせているハノンの手を引き、俺たち四人はライマル商会の店を目指す。
「こんにちは~」
作物の入った籠を抱えながら、店へと入る。
直後、受付を担当する若い金髪の女性店員と目が合った。
「あっ! はいは~い!」
来店したのが俺たちだと分かると、受付嬢はカウンターから出てきてこちらへとやってくる。彼女の名前はジェニファーさんといい、ここへ何度か通っているうちにすっかり顔馴染みとなった。特に、マルティナやキアラにとっては姉のような存在であるらしく、よく話し込んでいる。
「悪いけど、今グレゴリーさんは別の来客の相手をしていて……」
「なら、それが終わるまで店の中を見ています。買いたい物もあるので」
「そうしてもらえると助かる――あら?」
ジェニファーさんの視線が俺と手をつないでいるハノンに向けられた。
「えっ!? どうしたの、その子!? 超可愛い!!」
一瞬にしてハノンを気に入ったジェニファーさん。その勢いに押されたのか、ハノンは俺の背後へと回って隠れてしまった。意外と人見知りなのかとも思ったが……初見であのノリについていく方が難しいか。
「ジェニファーさん、ハノンが怯えているので……」
「はっ! ご、ごめんなさい……」
口元のよだれを腕で拭い、ジェニファーさんは冷静さを取り戻した。度を越した可愛いモノ好きってところを除けば、スタイル抜群の美人なのになぁ。
それはともかく、グレゴリーさんの手が空くまで、俺たちはハノンの服選びから始めていった。
「これなんてどうですか? 動きやすそうですし、色合いもハノンちゃんにピッタリだと思います」
「いいんじゃない。でも、こっちのフリルのついたスカートも捨てがたいわね……」
「わあっ! 可愛い! ハノンちゃんはどっちがいい?」
「服の良し悪しはワシには分からん。ふたりが選んでくれたもので構わんぞ」
本人以上にマルティナとキアラが熱い議論を交わしているな。
あと、こういう場合、男は蚊帳の外……まあ、俺もハノンくらいの年齢(人間換算)の女の子がどんな服を好きかなんて皆目見当もつかないから混ざりようがないけど。
とりあえず、時間を潰そうと店内を見て回っていたら、
「なんだと!?」
店の奥から大声が。
それは紛れもなくグレゴリーさんのもので、店内は一瞬にして緊迫した空気が漂った。
しばらくすると、ひとりの中年男性が店の奥から出てくる。
どうやら、彼が先客らしい。
その姿から察するに、どうやら商人のようで、ひどく慌てた様子で店を飛びだしていった。それから、グレゴリーさんも店内へと姿を現す。
「ど、どうかしたんですか?」
険しい表情を浮かべるグレゴリーさんへ恐る恐る声をかけると、
「! ベイルか……」
声をかけたのが俺だと分かると、グレゴリーさんは大きく息を吐いてから話し始める。
「厄介な状況になってなぁ……悪いが、俺は今すぐこの町の冒険者ギルドへ行かなくちゃならなくなった」
「ギルドへ? 一体何をしに?」
「クエストを申請する。……それも、Sランク級のクエストだ」
「!?」
冒険者ギルド。
クエスト。
Sランク。
一見すると、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界観にマッチしないものだが、存在自体はしていた。まあ、薬草を規定量までおさめるとか、希少価値の高い木の実を持ってくるとか、その程度で、モンスター討伐みたいな内容はない……が、どう考えても、グレゴリーさんが申請しようとしている内容はそっち方面っぽいな。
一体……何が起きたっていうんだ?
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