第22話 その名は……

「えっ? ……えぇっ!?」


 目を開けた瞬間、飛び込んできたのは――寝ている俺にまたがっているひとりの可愛らしい女の子だった。


「素っ頓狂な声を出しおって、一体どうしたのじゃ?」

「い、いやいやいや! 君こそ誰――うん?」


 俺は一度落ち着いて女の子の格好をチェック。


 年齢は十歳前後。

 少しウェーブのかかった緑色の長い髪。

 パッチリとした大きな瞳は、キラキラと輝きながら俺を見つめている。

 さらに驚くべきはその服装……っていうか、服を着てないんだ。裸なんだよ。


 ――ここがダンジョンであることを考慮すれば、こんな小さな子がこのツリーハウスにたどり着くことはあり得ない。上の森から来たとしても、あの森を夜中に歩き回ってここへ行き着いたとも考えにくかった。おまけに裸とくればさらに不可解だ。


 だとすれば……可能性はただひとつ。


「君は……アルラウネか?」

「? 今頃気がついたのか?」


 キョトンとした顔で言う女の子――アルラウネ。

 よく見たら、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】に出てくるアルラウネとデザインは一緒だ。ゲームでの立ち絵では蔓を体に巻いて全裸というわけではなかったが、結構ギリギリなデザインで実装当時はトレンド入りするくらい話題になったな。

 しかし、そうか……この子がスラフィンさんからもらったアルラウネだとするなら、名前を決めないと。あと、ちゃんとした服も用意しなくちゃな。

 いろいろと思考を巡らせていたら、


「ちょっと、何を騒いでいるのよ」


 部屋にキアラがやってくる。

 さらに、


「朝ご飯できましたよ~」


 マルティナも朝食の準備ができたことを告げに部屋を訪れた。


「「あっ!?」」


 室内の光景を目の当たりにしたふたりは、同時に固まる。

 それもそのはず。

裸の幼女と一緒に寝ている今の俺の状況は、限りなくアウトだった。

このままだと幼女を連れ込んだロリコンと認定されてしまう。


「ちょっと待った! ふたりは誤解しているぞ!」


 わなわなと小刻みに震えながら、少しずつ後退していくふたりを何とか食い止めようと必死に声をかける俺。だが、それをあざ笑うかのように、


「なんじゃ。父の友人か」

「「父っ!?」」


 ふたりの後退する速度が上がった。

 ――って、待て待て。


「父ってなんだよ!?」

「お主は我を種から育ててくれた……父も同然じゃろ?」


 その理屈は分からんでもないが。

 しかし、この発言がふたりの誤解をとくことになる。


「えっ? 育てたって……」

「あっ! あなた昨日のアルラウネね!」


 キアラが叫ぶと、アルラウネは「じゃからさっきからそう言っておるのに……」と呆れ気味に言う。ただ、そういったのはふたりが部屋に入ってくる前のことなので誤解してしまったのだ。




 ――と、いうわけで、気を取り直し、マルティナとキアラにアルラウネを紹介する。

 そして、名前をつけようと提案した。

 ちなみに、裸のままではまずいということを告げると、アルラウネは蔓を体中に巻いて服の代わりとした。

 とりあえず、応急処置としてはこれでいいか。

 お昼にでもライマル商会の店に行き、子ども用の服を買ってこよう。この前の報酬ならまだ残っているし。


「名前か……確かに、アルラウネって品種名だしね」

「どんな名前がいいでしょうか……」


 俺たち三人は朝食を終えると早速命名会議を開く。

 ちなみに、アルラウネは地中に根を張り、地底湖の聖水を吸い上げるだけで十分というお財布に優しい食事方法だった。


 会議は小一時間続き、とうとうひとつの案が出される。


「では、アルラウネの名前は《ハノン》ということでいいかな?」

「「異議なし」」


 こうして、アルラウネの名前はハノンに決定。

 彼女にはウッドマンたちとともに農場の管理をお願いしようと思う。 

 そのことを伝えると、


「かっかっかっ! 任せておくがいい!」


 高笑いをしつつ、了承してくれた。


「そうと決まったら早速仕事をするかのぅ。ついてこい、ウッドマンたち!」

「「「「「キキーッ!」」」」」


 あっという間にウッドマンたちを手懐けたハノンは、五人を引き連れて農場へと向かった。


「ははは、元気な子だな」

「素直でいい子そうですね!」

「一応モンスターなんだけどねぇ……」


 とりあえず、俺を父と慕ってくれているわけだし、他者に危害を加える心配も今のところはなさそうだ。



 こうして、俺たちのツリーハウスに新たな住人――アルラウネのハノンが加わったのだった。

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