第21話 これから

 俺はスラフィンさんからアルラウネの種を譲ってもらった。

 また、スラフィンさんには学園への編入も誘われた。自分が推薦すれば試験を受けずとも入学が可能とも言われたが、それについては丁重にお断りをした。

 興味がないわけじゃないけど、せっかくあそこまで農場を広げたわけだし、それにライマル商会との専属契約の件もある。というわけで、俺はこのまま農場開拓に専念する道を選んだ。


 ……もちろん、ディルクがいることも学園に通うことをやめた理由のひとつではあるけどね。



思わぬ収穫を得た後、慌ただしく会議へと出席するスラフィンさんを見送り、学園をあとにする。

 帰りの馬車の中で、キアラは俺が入学を断ったことについて残念がっていた。


「あなたなら、きっと優秀な成績を収められると思うけど?」

「俺は農場で働いている方が好きなんだ。それに――」

「それに?」


 首を傾げるキアラに、俺はディルクの件を話した。

 その場の流れとはいえ、マルティナが俺とディルクの関係を知った以上、キアラにだけ黙っておくわけにはいかないからな。


「ディルク……ああ、あのキザなヤツね」


 ズバッと言い切ったキアラだが、それでも言葉を選んで発言していることが容易に分かった。それくらい、呆れているというか、ディルクに対していい感情を抱いてはいないってことだ。


「あれ? でも、ディルクって……確か、大陸でも屈指の大貴族だったはず……」

「えっ? そうなんですか? じゃ、じゃあ、その方の従弟であるベイル殿って……」


 ふたりの視線が俺に突き刺さる。

 キアラはともかく、御者のマルティナは前を見てくれ。


 ……とにかく、これ以上隠しておくことは難しいだろうし、何より、今日までの共同生活でふたりは信頼のおける人物だということが分かった。

 だから、俺はこれまでのことをすべてふたりに語った。

 進呈の儀からダンジョンにたどり着くまでの軌跡だ。


「そんなことが……」

「いろいろあったんですね」

「ああ……ただ、竜樹の剣があったから、ここまで生きることができたんだ」


 正直、竜樹の剣なしで放り出されたら――ダメだ。想像するだけで悲しくなってくる。


「つまり、その竜樹の剣があったから……私たちは出会えたんですね」


 俺が竜樹の剣を眺めていると、マルティナがそんなことを言う。さらに、キアラがそれに続いた。


「そうよね。――ていうか、あたしの場合はベイルがそれを持っていなかったら、地底湖に落ちて溺れ死んでいたかもしれないのよね」

「ベイル殿が命の恩人というわけですね!」

「そうなるわね」

「お、大げさだよ」

「いいえ。大げさなんかじゃないわ。――ありがとう、ベイル」


 キアラは真っすぐに俺を見つめてお礼を言う。

 けど、言われっぱなしじゃダメだよな。


「俺だって、ふたりには感謝しているんだ。……きっと、どれだけウッドマンたちを従えようとも埋められないモノをふたりはしっかり埋めてくれている……なんていうか、うまく言えないけど、そんな感じがするんだ」

「ベイル……」

「ベイル殿……」


 少々しんみりした空気が流れるも、俺たちは互いの存在の大切さを改めてかみしめるのであった。




 地底湖のダンジョンがある近辺に人は滅多に近づかないそうだが、念のため、誰かが家へ侵入しないように専用の結界魔法で守ってある。

ちなみに、これもライマル商会の店で買ってきた防犯グッズだ。


 それを解除して家の中へ。

 簡単に荷物を整理したり着替えたり――諸々準備を整えてから、俺たちは三人そろって農場へと移動する。


 目的はもちろん、スラフィンさんからもらったアルラウネの種を植えるためだ。


「でも、どれくらいで育つのかしら?」

「まったく予想できないな……」


【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では、幼体になるまで早くても一年。成体になるには十年かかっていた。

 しかし、これはあくまでもゲーム上の時間であり、さらに条件次第では成長速度をアップさせることができる。


 その成長スピードの鍵を握るのが――地底湖の聖水だ。

 多量に魔力を含んだこの水が、果たして成長にどのような影響を及ぼすのか……実に楽しみだ。



 結局、その日は農場の一角に専用の場所を作り、そこへ種を植えて終了となった。



  ◇◇◇



 翌朝。

 俺は不自然な体の重みで目が覚めた。


「……うん?」


 なんだ?

 何かが俺の上に乗っている?

 ウッドマンが起こしにでも来たか?


 そう思っていると、



「いつまで寝ておるのじゃ? 早く起きて我と遊ぶがいい」



 聞き慣れない声が耳に届いた。

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