第20話 アルラウネの種

「ア、アルラウネ……」


 知っている。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中で、アルラウネは反則級の作物だ。

 作物――と言っても、アルラウネは生物だ。

 植物の力を自在に操るほどの強大な魔力を持つ反面、その育成難度はかなり高い。おまけに種の入手方法も難しいため、ゲーム内では上級者向けの作物となっている。


 本来なら、こんな序盤で手に入るものではない。

 ゲームの進行具合からすれば、手に入れても育てるのは不可能だろう。


 だけど、今の俺には竜樹の剣がある。

 ――っと、その前に、ひとつ尋ねておきたいことが。


「あの……」

「うん? なんだい?」

「どうしてこの種を俺に? お礼の品というには、その……高価すぎる気が……」


 率直な疑問だった。

 入手困難な貴重な種――それをどうして俺なんかに? 


「ははは、そう思うのも無理はないね。……だけど、私からすれば、それを譲るに相応しいことをしてくれたんだ」


 スラフィンさんはそう言うと、視線をキアラへと向ける。バチっと目が合ったキアラだが、気恥ずかしさからか、すぐに目をそらした。


「それに、君ならその子をしっかり育てられると判断したんだよ」

「えっ?」

「なんでも、ダンジョンに農場を開いているそうじゃないか。仕事柄、私もこれまで多くの人々とかかわってきたが……君ほど話を聞いて驚かされた人物はいないよ」

「は、はあ……」


 一応、褒められているってことでいいのかな?


「しかも、君の農場で育てた作物は、あの大賢商グレゴリー・ライマルをも唸らせたというじゃないか。その若さでそれほどのことをやってのける君だからこそ、この子を託してもいいと思ったんだ」


 そこまで知っていたのか。

 でも、そのおかげでゲーム中でも屈指のチートアイテムを労せず手に入れることができたんだ。ここはキアラに感謝だな。


「それじゃあ……いただきます」

「うむ。また何かあったら相談してくれたまえ。――君とは長い付き合いになりそうだ」


 ウィンクをしながらそう告げたスラフィンさん。

 それはむしろこちらからお願いしたいことだけど……なんだか、他にも意味がありそうな感じがする。


「えっと……スラフィンさん?」

「うん? ――ああっ! つまりだね……今後もうちの娘を君のところで一緒に生活させてもらえないかってことさ」


 な、なるほど。

 そういう意味も含まれていたのか。


「ま、まあ、あそこだと私自身の研究も捗るし……何より、今後はそのアルラウネの研究をしていきたいと思っているからちょうどいいかなって」

「わあっ! 嬉しいです!」


 マルティナは早くも大歓迎ムードだった。

 当然、俺だってそうだ。


「嬉しいよ、キアラ。君がいると賑やかで明るくなるし」

「そ、そうかしら?」

「ははは、いい仲間を見つけたな、キアラ」


 俺たちのやりとりを眺めながら、スラフィンさんは満足げに笑う――その時、研究室のドアをノックする音が。


「先生、まもなく会議の時間です」

「おっと、そうだった」


 どうやら、助手がスラフィンさんを呼びに来たらしい。


「すまないね。本当はもっとゆっくり話をしたかったのだが」

「いえ、こちらこそ、是非お話をしたいと思っています」

「そう思ってもらえて嬉しいよ。では、後日改めて席を設けるとするか。その際はおいしいハーブティーでもごちそうしよう」

「楽しみにしています」


 俺はスラフィンさんと固く握手を交わす。

 頼りになる人物と良好な関係を築けただけでなく、アルラウネの種という超レアアイテムまでゲットできるなんて……ラッキーなんてもんじゃないな。


 ――って、いつまでも浮かれてはいられないな。


「キアラ」

「な、何?」

「これからもよろしくな」

「! こ、こちらこそ!」

「あっ! 私も!」


 握手をしている俺とキアラの手の上に、マルティナが自分の手を乗っけてくる。

 三人で握手をするという変わった光景となり、自然と笑みがこぼれてきた。


 さあ、早速ダンジョンへ戻って、この種を育てるとしようか。

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