第19話 お助けキャラのスラフィン

※本日は18:00にもう1話投稿予定!




 あまり出会いたくない人物との再会。

 マルティナの語りたくない過去。


 暗い雰囲気になりかけていたところで、キアラが母親であり、この学園で魔法学の研究をしているスラフィン・フォンテンマイヤーが面会を希望しているということを告げられた。


 当然、俺はこの申し出を快諾する。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】において、彼女――スラフィンの存在は非常に頼もしい。プレイヤーが新しく魔法を覚えるには、スラフィン・フォンテンマイヤーの協力は不可欠だ。


 農場をさらに発展させるためにも、会っておいた方がよさそうだ。




 俺たちはキアラの案内でスラフィンさんの研究室を目指した。

 魔法学の研究棟にいるらしいが、そこはまさに魔法尽くしの建物だった。

 浮遊魔法や転移魔法の実験をしている者に、炎や水の基礎系統魔法を極めようとしている者――とても活気にあふれた光景が広がっている。


「凄いな……」

 

 あの地底湖を初めて眺めた時と似たような感動だ。


「みんな夢中になって魔法を研究していますね」

「ああ。楽しそうだ」

「まるでベイル殿が畑仕事をしている時のような表情です」

「あー……確かに、言えてるかもね」

「えっ? 俺ってそんなに楽しそうにやってたかな?」

「それはもう、ウッドマンたちと一緒に楽しそうでしたよ」

「そうそう」


 うーむ……俺としてはまるで意識していなかったのだが、ふたりが口を揃えて言うということは無意識のうちにそういった態度になっていたってことかな。ただ、俺としても性に合っているとは感じているけど。


 三人で会話をしているうちに、目的地の研究室へとたどり着く。


「ここよ」


 キアラが一歩前に出て、ドアをノックする。

 直後、ドアの向こうから「どうぞ」と入室を許可する声が。

 あれがスラフィンさんの声……ゲームではボイス未実装だったから新鮮だ。


「失礼します」


 キアラに続いて、俺とマルティナも研究室内へと足を踏み入れた。

 そこにはズラッと背の高い本棚がたくさん置かれており、手に取るのさえためらわれるような分厚い本が行儀よく並んでいる。

 部屋の中心には大きなテーブルが設えられ、その上には研究に使うためか、謎の液体で満たされたカップがあり、その周囲には研究用の道具が散乱していた。


 本棚こそ整頓されているが、それ以外はお世辞にも綺麗な部屋とは呼びづらい状態であった。


「少々散らかっているが、気にしないでくれたまえ。何せ、ここのところ忙しくて、掃除する暇もないんだ」


 サバサバした口調でそう語るメガネをかけた紫色の髪をした女性。

 ……間違いない。

 ゲームの立ち絵と瓜二つ――彼女がスラフィンさんだ。


「は、初めまして、ベイルと言います」

「マルティナです!」

「そんなにかしこまらないでくれ」


 俺とマルティナがペコリと頭を下げると、スラフィンは苦笑いを浮かべながらそう言った。本人の口調からも察せられるが、どうもこうしたかしこまった態度や雰囲気が苦手な人らしい。


「娘から話は聞いているよ。随分と世話になったそうだね。今回のレポート完成も、君たちの尽力あってこそだそうじゃないか」

「い、いや、そんな……」

「レポートはキアラちゃんが頑張った結果ですよ!」


 それは心からの言葉だ。

 俺たちは見続けてきたから断言できる。

 キアラは頑張っていた。

 レポートに使用する薬草こそ俺が提供したが、そこからの分析や調査などはキアラ自身が一生懸命にやっていたんだ。

 俺とマルティナはそのことを必死に訴えた。


「ほぉ……この子がそこまでねぇ」


 話を聞いていたスラフィンさんの表情は柔らかくなっていた。

 一方、キアラは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

……やりすぎたかな?

 反省していると、横でスラフィンさんが満足そうに何度も頷き、それからゆっくりと口を開いた。


「あの子を君たちと一緒に生活させた――その判断は間違ってはいなかったようだ」

「? と、いうと?」

「この子が必死にお願いしたんだ。君たちと一緒に住んでみたいと。あんな風に熱心な態度は初めてだったから『もしや』と思ったが……いやはや、ここまでの相乗効果を生みだすというのはさすがの私でも予想がつかなかったよ」

 

 そんな事情があったのか……キアラはもう倒れそうなくらい顔を赤くしているけど、それはまあ、しょうがないだろう。


 それから、スラフィンさんは何かを思い出したようで、ポンと手を叩くと机の引き出しから小袋を取りだして「どうぞ」と俺に手渡す。


「あの……これは?」


 俺が尋ねると、スラフィンさんはニッコリと笑いながら答える。


「娘を元気にしてくれたからね。お礼の品ってわけさ」

「お礼の品?」

 

 俺は小袋の中身を確認してみる。

 これって……


「植物の種ですか?」

「そうだ。――アルラウネの種だよ」

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