第16話 ダンジョン・ライフ
キアラの移住が正式に決定したところで、マルティナの手伝いをしていない残り三人のウッドマンたちを呼び寄せ、家具づくりを依頼した。
「ベッドのサイズはこれくらいかしら。あと、お洋服を入れるクローゼットが欲しいわね。それから――」
ウッドマンたちを引き連れ、部屋で詳しい打ち合わせを始めたキアラ。
現在は学園の敷地内にある寮で生活をしているそうだが、そこを出てここへ移住するつもりらしい。
そのことについて、親へ了承を得たり、学業に支障はないのかと尋ねたが、
「いいのよ。私は学生だけど、厳密に言えば研究生といって、授業に出なくても与えられた課題をしっかりこなしていれば、卒業に必要な単位はもらえるの」
この世界の教育制度については疎いのだが、それでもキアラがある種の特別扱いをされているということが分かった。あと、キアラ自身が、自分のそうした立場に不満を持っているということも。
それから、
「親に関しては大丈夫よ。……ママもパパも、あたしになんて興味ないだろうし」
両親との関係も良好でないことが発覚。
これについては、さすがに詳しい内容を尋ねることがはばかられた。
とりあえず、学園寮を去ったところで、両親がとやかく言ってくることはないとキアラは主張したので、それ以上は何も言わず、受け入れることにした。
「一体……何があったんだろう……」
俺はウッドマンが作ってくれた釣り竿を握り、地底湖へ糸を垂らしている。
難しいことを考える時は、釣りが一番だ。
前世での数少ない趣味でもあったし。
そのおかげで、練り餌を自作することもできた。
持つべきものはサバイバル能力のある趣味だな。
釣り糸の先にあるウキを眺めながら、俺はゲーム【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の内容を思い出していた。
ゲーム内ではいつも穏やかな笑みを浮かべ、優しい口調でプレイヤーを癒してくれるキアラの母・スラフィン。
だが、実は結構重めの家庭事情があったのか……娘にあんなことを言われるくらいだからなぁ……。
もしくは、多忙のあまり娘をあまり構ってやれないとか?
ゲームでの性格上、そっちの方が有力かな。
自分のことよりも他人を優先してしまう性格らしいし。
なんとかうまくいってもらいたいけど……
「おっ?」
そんなことを考えていると、ウキに反応が。
「よっと」
竿を上げて糸を引き寄せると、針にはちゃんと魚がかかっていた。
正直、いるかどうかも分からなかったから、釣れてよかったよ。
サイズは四十センチくらいか……まずまずのサイズだ。
よしよし。
これで晩御飯のおかずが増えたぞ。
「最低でもあと二匹は釣らないとな」
せめて人数分は確保したい。
そう思いつつ、俺は再び糸を地底湖へと垂らした。
結局、ゲットした魚の数は人数分の三匹。
最低限の数は確保できてよかった。
「罠を仕掛けておいてもよさそうだな」
恐れていた水棲モンスターの姿も確認できないし、たまにはこうしてのんびり釣りをするのもいいかもな。
というわけで、俺は収穫を持ってツリーハウスへと戻った。
「わあっ! 立派なサイズですね!」
「調理できるか? もし無理なら丸焼きでも――」
「いえいえ。立派なサイズですから、綺麗におろしましょう」
そう言うと、マルティナはひとつの瓶を取りだした。
そこには何やら赤いソースのようなものが入っている。
「それは?」
「フレイム・トマトのソースです。魚の身をこれで煮込んでいきましょう」
「おおっ!」
やるなぁ、マルティナ。
……それにしても、マルティナって魚もさばけるのか。
いよいよ元料理人説が濃厚になってきたな。
そこへ、
「はあ……やっと終わった――って、凄くいい匂い!」
三階で部屋づくりを終えたキアラが一階のキッチンへと下りてきた。
「この匂いは……」
「マルティナの作った特製のトマトソースだよ」
「トマトソース?」
「それを使って、魚の煮込みを作っているんだ」
「魚なんていつ買ったのよ」
「買ったんじゃなくて釣ったんだよ。すぐそこの湖で」
「!? あそこって、魚いたんだ……」
俺とキアラは椅子に座り、なんでもない会話を繰り広げる。そのうち、料理の完成が近づくと、食器を並べるなど準備に取りかかる。
そして、とうとう、
「はーい、できましたよー」
とうとう料理が出来上がった。
地底湖で釣れた魚のトマトソース煮込み。
うん。
うまそうだ。
俺たちは食卓を囲んで、夕食を楽しんだ。
できることなら、こういう日がこれからも続いてほしい。
そう思える一日となった。
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