第15話 薬草栽培

 ライマル商会との専属契約を勝ち取った俺たちは、その勢いのまま次の問題解決に乗りだした。


 それは――キアラの課題。

 キアラが学園の課題をクリアするのに必要な薬草の名はランネロウといい、入手自体は容易だし、安価だ。現に、作物鑑定を行ったライマル商会の店に種が売っており、少量を購入。


 とりあえず、これでドリーセンに来た目的はすべて達成できたな。

 まだ時間も早いし、いろいろと見て回りたいが……それは後日にしよう。

今は、すぐにでもキアラの願いを叶えなくちゃな。

そういったわけで、俺たちはダンジョンにあるツリーハウスへと帰宅した。



  ◇◇◇



 地底湖近くにあるダンジョン農場。

とりあえず、荷物を家にツリーハウスに置いてから、すぐに畑へと移動し、竜樹の剣を取りだした。

マルティナは夕飯の仕込みするということでウッドマンふたり(ステファンとジョージ)を助手にしてキッチンにこもった。……やっぱり、どこかで料理修行していたんじゃないのか? 


……まあ、マルティナの素性については今後改めて聞くとして、今はランネロウの育成についてだ。


「何をするの?」


 隣に立つキアラが、首を傾げながら尋ねてくる。

俺は購入したランネロウの種を手にしながら答えた。


「この種を育てるのさ」

「育てるって……課題の提出は一週間後って言ったじゃない。ランネロウの花が薬草に利用できるまで育つには一ヶ月近くかかるのよ?」

「それを三日で終わらせるのさ」

「三日!? 無理よ!?」

「無理じゃないさ――この剣の力さえあれば」


 一見するとみすぼらしい、子どものおもちゃに匹敵するガラクタだが、これこそは農業における不可能を可能とする剣――竜樹の剣だ。


 俺は柄の部分についている蓋を開ける。

 そこに、種を入れて……準備は整った。


「これでいつでもランネロウの種を出せる」


 これこそが、竜樹の剣の特性のひとつ。

 野菜や植物の種を取り込むことで、今後はその種を魔力によって作りだすことが可能になる。

 この手法でどんどん種を取り込んでいけば、それだけ育てられる作物の種類は増えていく……本当に素晴らしい能力だよ。


 そして、この畑には地底湖の水――聖水の効果で成長が速い。言ってみれば、超促成栽培が可能となっている状態ってわけだ。

 しかも、ランネロウの成長速度はこれまで育てた素材系植物や魔力補助系野菜よりも速いときている。

 俺の予想が正しければ、恐らく――


「おおっ!」


 農場に種を撒くと、予想した通りの光景が広がった。

 あっという間に成長したランネロウ。

 ものの数分で、薬草に使用できるサイズまで大きくなったのだ。


「す、凄い!」


 これにはキアラも大興奮。

 ただ、これで課題が進められるという喜びよりも、


「一体どんな魔法なの!?」


 竜樹の剣の性能に強い関心を抱いたようだ。


「この竜樹の剣は農業特化の武器――いや、アイテムだ」

「確かに、その剣で戦ったら……一瞬でへし折られそうね」


 クスクスと笑いながら言うキアラ。

 そこに、最初の頃の警戒心は微塵もなかった。

 

「…………」

「な、何よ!」


 おっと。

 ジッと見つめていたら不審に思われたようだ。


「いや、自然に笑えるようになってよかったなって思っていたんだ」

「はあ? べ、別に、最初から自然体だったわよ」


 とてもそうは思えなかったけど……まあ、これ以上ツッコミを入れるのは野暮ってモンだな。


「……ねぇ」

「うん?」

「あなたはしばらくここで暮らすの?」

「しばらくというか……可能なら永住したいと思っている」


 それは本心だった。

 景色もいいし、なんといっても地底湖の存在が大きい。

 聖水は作物の成長速度を上げるだけでなく、その品質も大きく向上させる効果があると知れたからな。これからもっと農場を広げていって、いろんな作物を育てたい――そんな野望が心の奥底から湧き上がっていた。


「そうなの……」


 一方、キアラは何かを言いたげにしているが、その一言が出ないような感じ――と、その時、


「ベイル殿! 私もお手伝いします!」


 ツリーハウスの一階にあるキッチン。

 そこにある大きな窓は現在開け放たれているが、そこからマルティナの叫ぶ声が農場までバッチリ届いた。


「ああ! 期待しているよ、マルティナ!」


 その声の大きさに負けじと、俺も力いっぱい叫んだ。

 マルティナのように元気で料理のうまい子がいてくれたら、本当に助かるし、ありがたいことだ。毎日が楽しくなりそうだよ。


「……私も」


 俺がマルティナへ手を振っていると、横でボソッとキアラが呟いた。


「えっ? 何?」

「だから……私もここに残りたいって言ったの」

「キアラが?」

「わ、私の学園での専攻は魔法薬学で、いろんな作物を使うのよ! あなたが育てているフレイム・トマトとか、アイアン・コスモスとかが研究対象になっているし……つまりそういうことだから、ここにいさせてもらうわよ!」

「いいよ」

「いいの!?」


 俺があっさりと了承したことが意外だったのか、キアラはめちゃくちゃ驚いていた。


「ツリーハウスの三階の部屋が空いているから、そこを自由に使ってくれて構わないよ」

「あたしが寝かされていた部屋ね。感謝するわ」


 クールな態度を取っているように見せて、こっそり小さくガッツポーズをしたのを見逃さなかったけど……これもまた追及するのは野暮というものだ。忘れることにしよう。


 ともかく、こうしてダンジョン農場に新しい住人が加わったのだった。

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