第14話 いざ、作物鑑定

 結局、その日はツリーハウスの三階をそのままキアラに貸し出し、一夜を過ごしてもらうことにした。

 町で買ってきた物で、今後使う予定の物は地下の倉庫へと移し替えると、そろそろ就寝の時間になった。俺は昨日同様、ウッドマンたちに周辺の警備を頼むと、一階にある自室へと向かう。

 ちなみに、一階はリビングとキッチンがあるため、ちょっと広めの設計になっている。


「ふたりとも、おやすみ」

「おやすみなさい、ベイル殿!」

「ふあぁ……おやすみ~」


 挨拶を交わしてから、俺はツリーハウスの中にあるすべてのランプの灯りを消してから眠りへとついた。



  ◇◇◇



 翌朝。

 簡単に朝食を済ませると、俺たちはグレゴリーさんに会うため、ドリーセンの町へと向けて準備を整える。


 最初は昨日と同じダンジョンルートで行こうと思ったが、ツリーハウスの上部をチェックする意味も込めて、階段を上がっていくことに。


 六階部分のドアをあけると、そこは地上だった。


「ここへつながるのか」


 ダンジョンの天井にあいた穴を貫き、地上に部屋が突き出ているツリーハウスの最上階部分。

 ここは屋上ってことにしてもいいな。

 日当たりも抜群だし、少し移動すれば森にも出られる。


「外へ出るには、こちら側を通った方がよさそうですね」

「ああ、そうだな。あっちは仕掛けを解かないといけないし。……ただ、この深い森を迷わずに進むのは難しそうだな」

「えっ? あなたたちはどうやってあの地底湖にたどり着いたのよ」

「ダンジョンからだ」

「……むしろダンジョンからこの地底湖にたどり着けるルートがあったの?」

「! ぐ、偶然見つけてな」


 本来ならば見つけるのが困難ってレベルじゃない場所だからな。

 

「それより、ここから町へ向かうにはどっちへ進めばいいんだ?」

「こっちよ」


 一切の迷いなく、キアラは歩いていく。

 そうか。 

 キアラは薬草を探してこの森に入ってきたんだった。


「道が分かるのか!?」

「迷わないように、魔道具を使ってあちこちに印をつけておいたのよ。ダンジョン内を移動するよりはいいと思うけど?」

「そうだな。じゃあ、案内を頼むよ、キアラ」

「任せなさい」


 胸を張るキアラ。

 ……こう言ってはなんだが、マルティナに比べると控え目なサイズだな。というより、マルティナが規格外なのか?


「……何か言いたげな顔ね」

「!? べ、別に、何でもないよ!」


 ……気を取り直して。

 俺は改めてキアラの魔道具について考える。

 確かに、ゲームでもそのような効果を持ったアイテムがあったな。プレイ序盤では大きく役に立ってくれたな。


 俺たちはキアラの案内で森を進む。

 やがて、木々が少しずつ減っていき、整備された道へと出た。


「この道をこっちへ進めば、ドリーセンの町が見えてくるわ」


 キアラが得意げに話す。

 ここまで来るのに、モンスターの影さえ見なかったな。ダンジョンの方が生息数も多いとはいえ、あそこまで何もないとはな。なんだったら、弁当を持ってピクニックに出かけてもいいくらいだ。

 

 ――っと、本題から逸れたな。

 これから待っているのは人生の大きな分岐点。

 グレゴリーさんによる作物鑑定だ。


  ◇◇◇


 ドリーセンの町へ来た俺たちは、真っすぐライマル商会の店へと向かう。

 店内へ足を踏み入れると、


「おおっ! 来たか!」


 早くもグレゴリーさんに見つかった。

 心なしか、初めて会った時よりもテンションが高い気がする。


「その手に持った籠に入った野菜が……君の頑張りの結晶だな?」

「はい! よろしくお願いします!」


 俺はグレゴリーさんに持ってきた野菜を手渡す。


「む?」


 一目見ただけで、グレゴリーさんの表情が一変する。どうやら、この野菜が普通の物でないと見抜いたようだ。


「どれどれ……」


 グレゴリーさんはフレイム・トマトを手にし、それを口に含むと、


「うおっ!?」


 カッと目を見開いた。

 まさか……味に問題が!?


「ど、どうかしましたか?」

「い、いや、驚いてなぁ」

「お、驚くというのは……」


 恐る恐る尋ねると、グレゴリーさんはニッと笑顔を見せた。


「こういった、魔力増強用の野菜っていうのは効果こそ抜群だが、その味は甘みもへったくれもなく、パサパサで水気がない――ようは死ぬほどまずいのが当たり前なんだ」

「「「えっ!?」」」


 今度は俺たちが驚く番だった。

 これもすべては聖水の効果なのか?

 答えが分からぬまま、作物鑑定は終わり、その結果は――


「合格だ。こいつは是非ともうちで扱わせてもらいたい」


 完璧な一発合格だった。


「いやぁ……想像以上だったよ、ベイル」

「あ、ありがとうございます!」

「何を言う。礼をしたいのはこっちの方だよ。追加効果があるのにこんなにおいしい野菜をよくぞうちに売り込んでくれた」

「そ、そんな……」

「こいつは前金だ。もらっておいてくれ」


 ドン、という重量感ある音とともに、グレゴリーさんはお金の入った袋をテーブルの上に置く。これ……かなりの金額だぞ。


「こ、こんなに……」

「安いもんさ。それよりも、これからの段取りを決めようじゃないか」

「はい!」


 俺はマルティナ、キアラのふたりと一緒に、今後の出荷予定などについてグレゴリーさんと話し合い、それから、専属契約に関する契約書を渡されると、条件面を確認してその場でサインをして返した。

グレゴリーさんの話では、最初の出荷分をこちらへ持ってきて、再度味を確認してから正式に契約成立となる。


 だいぶ用心深いな……まあ、だからこそ大賢商なんて呼ばれているんだろうけど。

 


 ともかく、こうして俺はライマル商会との専属契約を勝ち取った。

 これからもバリバリ栽培していくぞ!


 そして次は――キアラの課題についてだ。

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