第12話 魔法使いキアラ

※本日は18:00にもう1話投稿予定!





 ダンジョン農場で収穫した野菜。


 フレイム・トマト。

 サンダー・パプリカ。


 このふたつの野菜を、まずはそのままいただいてみる。


「っ! うっま!」

「このままでも凄くおいしいですね!」


 正直、生野菜は食感や青臭さがあってちょっと苦手だったが、これはそんな俺でも問題なくイケる。むしろ手が止まらなくなるくらいだ。


「これも聖水の効果なのか……」


 成長促進&品質向上。

 まさに願ったり叶ったりの状況だな。

 

 さて、このままでも十分おいしいのだが、今回はマルティナがマリネにしてくれるということで楽しみに待つとしよう。


「すぐにできますからね~」


 そう言いながらエプロンを着用するマルティナ。

 ……あれもグレゴリーさんの店で買ってきたのか?

 似合いすぎて困る。


 鼻歌を交えながら、楽しそうに調理するマルティナの背中をウッドマンたちの作った椅子に座って見つめていると、階段から足音が。

 ――どうやら、お目覚めらしい。


「…………」


 五体のウッドマンを引き連れて、二階から下りてきたのはあの薄紫髪のツインテール少女だった。ここがどこなのか分からないことから来る不安なのか、忙しなく首を左右上下に振っている。

 やがて、俺と目が合うと声を荒げた。


「だ、誰よ、あんた!」


 杖を両手でしっかり握り、魔力を込め始めた。

 おいおい……随分と警戒されているな。


「あっ! もしかして、このウッドマンたちはあんたの使い魔!? この子たちに気を失っていたあたしを監視させて、一体何を企んでいるの!?」

「落ち着け。俺は君を助けたんだ」

「た、助けた?」

「地底湖へ向けて落下している君をこいつで救ったんだよ」


 そう言って、俺は竜樹の剣を見せる。

 

「な、何それ……?」


 女の子はちょっと引いていた。

 ……ビジュアル面で大きく評価を落とすのがこの武器の悪いところだよな――と、思ったけど、能力も農業特化だから評価しづらいか。俺は好きだけど。


「確かに見た目はちょっとショボいが、これでもれっきとしたアイテム――それも、魔力を錬成する魔道具のひとつなんだ」

「魔道具って……あんた、魔法使いなの?」

「厳密に言うと違う。俺は――ただの農夫だ」

「はあ?」


「何を言っているんだ、おまえは」というツッコミが聞こえてきそうな表情で俺を見てくるツインテール少女。

 ――って、そういえば、まだ名乗っていなかったな。


「俺の名前はベイル。あっちの……料理に集中しすぎていて俺たちのことにまったく気づいていない女の子はマルティナといって、このダンジョンで冒険者をしている」

「ふーん……」


 未だに警戒心がある女の子。

 しかし、助けられた記憶は薄っすら残っているらしく、もじもじしながらも自己紹介を始める。


「あたしの名前は……キアラよ。キアラ・フォンテンマイヤー」

「フォンテンマイヤー……?」

「あら、知っているの? まっ、当然よね。なんて言ったって、世界屈指の魔法研究家として名高い一族のだから!」


 高笑いをするキアラ。

 だが、それも納得だ。

 

俺はフォンテンマイヤーという人物を知っている。

 なぜなら、このゲーム――【ファンタジー・ファーム・ストーリー】に登場する重要人物のひとりだからだ。


 その人物の名前はスラフィン・フォンテンマイヤー。

大陸にその名を轟かせる魔法研究家だ。


 ゲーム内での役割としては、作物と便利なアイテム(魔道具)を交換してくれる――グレゴリーさんと同じで、ゲーム内でプレイヤーを補佐する、いわゆるお助けキャラのひとりだ。


 彼女――キアラ・フォンテンマイヤーは、そのスラフィンの娘ということか。

 ……当たり前なんだけど、ゲームの世界が今の俺にとっては現実。現実の世界では家族がいる。たとえ、ゲームの中で言及はされていなくても、スラフィン・フォンテンマイヤーに子どもがいてもなんらおかしくはないんだ。そもそも、俺にだってこっちの世界に家族がいる。……今はもう違うけど。

 それでも……やっぱりちょっと不思議な感じがするな。


 ――と、


「あの……その……」


 何やらキアラがモゴモゴ言っている。

 集中して耳を傾けると、


「あ、ありがと……助けてくれて……それから……変に疑ってごめんなさい……」


 消え入りそうな小さな声で、お礼と謝罪の言葉を述べたキアラ。

 それに対し、俺は「いいよ」と控えめに返事。

 たぶん、大げさにしたらややこしいことになるんだろうなぁ……そう予想しての、返事だったのだ。

 その時、


「はーい、できました――って、あっ! 目が覚めたんですね!」


 ここでようやくマルティナがキアラの存在に気づく。

 そして再び始まる自己紹介。


「よろしくね、キアラちゃん!」

「よ、よろしく、マルティナ」


 人懐っこいタイプのマルティナはキアラに対しても俺と同じように明るく接している。一方、キアラの方は少々人見知りするタイプのようで、握手には応じているもののまっすぐにマルティナを見つめることができていない。

 対照的なふたりだが……意外と相性はよさそうだな。


「そうだ! キアラちゃん、お腹減ってない?」

「えっ? そういえば……ちょっとお腹空いているかも」

「だったらこれをどうぞ!」


 マルティナは笑顔でフレイム・トマトとサンダー・パプリカのマリネをキアラへと差し出す。そのキアラは、


「や、野菜……?」


 急に顔が引きつった。

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