第11話 落ちてきた少女
※明日からは1話ずつの投稿になります。
投稿時間は12:00の予定です。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】における最強の人権キャラことグレゴリーさんと専属契約を結ぶため、俺は収穫日を待つことにした。
――が、その日はすぐにやってきそうだ。
というのも、町から戻り、農場の様子を覗いた時、
「うおっ!?」
思わず声を出してしまう光景が広がっていたからだ。
そこにあったのは、たくましく成長した作物たちの姿であった。
「あの短時間でこんなに……こりゃ想定していた以上に地底湖の恩恵がデカいな」
元々成長の早い素材系作物ならばすぐに持っていけると考えていたが、野菜の成長速度も想定を超えたスピードである。これなら遅くても明後日にはすべての作物を届けることができそうだ。
「わわっ! もうこんなに成長したんですか!?」
その成長速度に、マルティナも驚いているようだ。
「この中だと……特に成長が早いフレイム・トマトとサンダー・パプリカあたりをグレゴリーさんに持って行こうかな」
「どちらも魔法使いにとっては嬉しい魔力補助型食材ですからね。扱っている農家も多くないと聞きますし、かなりポイントは高いと思いますよ」
「問題は……味だよな」
俺の頭の中には、グレゴリーさんの言ったあの言葉が焼きついていた。
『だが、俺も商人としてこの辺りでは少し知られた身……味の審査については一切の妥協はしない。それだけは覚えておいてくれ』
そう。
肝心なのはその野菜がもたらす効果だけではない――ライマル商会で扱われるためには味の良さも求められるのだ。
そのため、俺はここでの栽培条件をもう一度見直してみる。
日当たりに関しては問題なし。
今も眩しくて目を細めてしまうくらいの日光が、ダンジョン上部にぽっかりと空いた穴から入り込み、湖面と農場を照らしている。害獣&害虫による被害もなし。土壌に含まれる栄養素(地底湖から染み出る魔力)も十分だ。
問題ない。
すべてが順調に進んでいる。
これなら、味も期待できそうだ。
「とりあえず、フレイム・トマトとサンダー・パプリカは今晩収穫して味を確かめてみようか」
「調理はお任せください!」
「期待しているよ」
すっかりここへ定着してしまったマルティナ。
まあ、本人も「フン!」と鼻息荒くしてヤル気になっているみたいだし、いいかな?
「それじゃあ、あとは町で買ってきた物を整理するか」
「はい!」
「君たちも手伝ってくれよ」
「「「「「キキーッ!」」」」」
俺はグレゴリーさんの店で買い込んだ生活必需品が入った袋を担いで、ツリーハウスを目指す。おかげでもう資金はほとんど底をついた……なんとしても、この作物たちをライマル商会で扱ってもらわないといけないな。
――なんてことを考えていたら、誰かに袖を強く引っ張られた。
振り返ると、そこにはウッドマンのアーロムが。
何やら必死に訴えかけているが……
「? 地底湖に何かあるのか?」
「キーッ!」と叫びながらアーロムが指さすのは地底湖――ではない。それよりももうちょっと上。……上?
「うあっ!?」
思わず、変な声が出た。
なぜなら、ぽっかりと空いた天井の穴から、誰かが落ちてきているのが見えたからだ。あの髪の長さからして、女の子か?
高さは優に十メートルは超えている――このまま行くと、最悪死ぬぞ!
「くっ!」
俺は担いでいた袋を置くと、地底湖へと駆けだした。
後ろでマルティナが「ベイル殿!? どうされました!?」と叫んでいるが、止まっている暇はない。
「間に合え!」
落下する女の子を救うため、俺は竜樹の剣を地面へと突き刺す。
直後、マルティナを襲ったモンスターの動きを封じ込めた際に出てきた、あの巨大な蔓が女の子めがけて伸びていく。
やがて、その蔓は大きな手の形となり、落ちてきた女の子を優しく包み込んだ。
ダメージはあっただろうが……湖面に叩きつけられるよりはマシだろう。
「ベイル殿!」
「大丈夫。あの子は無事だ。――どうやら、落ちている途中で気を失ったらしい」
蔓を引き寄せ、女の子の安否を確認……目につくケガはないようだ。
「それにしても……」
俺は女の子に釘付けとなる。
薄紫色の長い髪をツインテールでまとめ、黒いとんがり帽子をかぶった女の子は――とても可愛らしかった。まるで人形のようだ。
それから、もうひとつ。
横たわる彼女の近くには杖がある。
もしかして……魔法使いか?
「? ベイル殿?」
「!? あ、ああ、ごめん」
思わず見惚れていて意識が飛んでいた。
「とりあえず、この子はベッドにでも寝かせておくか」
「でしたら、私の部屋に運びましょう」
「いや、あの部屋はマルティナが使うだろ? ツリーハウスにはまだ部屋が余っているわけだし、そこに寝かせておこう」
こんなこともあろうかと、ウッドマンたちには必要な家具を作らせておいたのだ。あいにくとシーツは俺とマルティナのふたり分のみなので、俺の分を先に使ってもらうとしよう。まだ未使用だからセーフだよな。
ウッドマンたちに落ちてきた女の子を託し、俺とマルティナは収穫に専念。
といっても、明日のために試食する程度なので、それぞれふたつずつに限定し、味を確かめてみる。
「トマトとパプリカ……まずはそのまま食べて、残りはマリネにしてみましょうか」
「えっ? できるのか?」
「はい。ちゃんと必要な材料も買っておきました」
「おお! 準備がいいんだな」
「育てている野菜のラインナップを見た時に思いついたメニューなんです」
……やっぱり、マルティナって料理が得意なんだな。
それも、かなり年季の入った腕前を持っている。
もしかしたら――冒険者になる前は、料理人を目指していたとか?
マルティナの過去がちょっと気になる中、いよいよ収穫した野菜の味見をすることとなった。
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