第9話 ドリーセンの町
※次は17:00に投稿予定!
午前中にやれることは全部やった。
なので、午後は家から出る際にもらった、なけなしの資金でいろいろと買い込もうと思っている。
例えば山羊や鶏なんていいな。
牛や豚はここの広さ的に難しいが、それくらいのサイズなら問題なく飼育できる。なんだったら、鶏舎とか作ってもいいかもな。
そもそも、町自体にも興味があった。
ここへ来る途中は、とにかく「地底湖で農場を開く」という考えが先行していて、途中の町の様子を楽しむってことができなかったからな。こうして、大体のことに目途が立った今だからこそ、じっくり見て回れるというものだ。
それに、最寄り町の商会事情というのも知っておきたかった。
うまくいけば、うちの商品を売り込めるからな。
魔力を多量に含んだおかげで魔力の回復凉に優れる野菜や、武器や防具の精度をアップさせる素材――いずれも結構な額で取引されるはずだ。
ついでに昼食もそっちで済ませようと思ったが……マルティナはどうするんだろう。なんだかんだですっかり居着いちゃっているよなぁ。今もウッドマンたちと楽しそうに遊んでいるし。
「あぁ……マルティナ?」
「はい? なんでしょうか!」
相変わらず元気だが……すっかり本来の目的を忘れてしまっているようだ。
「俺はこれから町へ行く」
「町ですか?」
「ああ。リームよりも大きくて一番近い町だと――
「でしたら、西の方にドリーセンという町がありますが」
「ドリーセンか」
ゲームでも聞いたことあるな。
「よし。昼食を食べながら、ちょっと買い物をしに、ね」
「昼食……?」
その単語を口にした途端、マルティナのお腹が「くぅ~」と鳴る。
「「…………」」
さすがにお腹の音を聞かれるのは恥ずかしかったのか、マルティナは顔を真っ赤にしながら目を泳がせている。
「……一緒に来るか?」
「えっ?」
「まだ野菜はできないし、ウッドマンたちは聖水があれば飯はいらない。だから、ひとりで食事をしなくちゃいけないんだけど……それだと味気ないと思ってね」
「ベイル殿……分かりました。町へ行きましょう。案内しますよ」
「ああ。頼むよ」
町の情報については、マルティナの方が詳しいだろうし、ここは素直にお願いするとしよう。
ウッドマンたちに家の警備をお願いすると、俺とマルティナは隠しルートを戻ってダンジョンの外へと出た。そこから十分ほど歩くと、最寄りの町であるドリーセンへとたどり着く。
午後を迎えた町の様子は穏やかものだった。
俺たちは町の中央通りに並ぶ屋台で適当に食べ物を購入すると、大きな噴水の近くにあるベンチに腰を下ろして食べ始めた。
ここは東西にある大都市のちょうど中間地点にある町ということで、商人たちにとっては中継地点となる。そのため、宿屋や食堂が多く、また朝市も非常に活気があるという情報をマルティナから教わった。
この辺は【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界観と一緒か。
よく見ると、周囲の景観にも見覚えがある。
町を分断するように流れる運河。
遠くの方に見えるいくつかの風車。
全体的に漂ってくる牧歌的な雰囲気。
……いいなぁ。
こうして、ベンチに座りながら周りの景色を眺めているだけでも一日が終わってしまいそうだ。それはそれで、いい一日の過ごし方なのかもな。
そんなことを思っている間に食事は終わり、再び中央通りへと戻る。
それから、マルティナの案内で訪れたアイテム屋――そこはかなり大きな店だった。
「先ほどお話した、ライマル商会のお店ですよ」
「ここが……」
ライマル商会。
その名には聞き覚えがあった。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界では人権キャラとして有名だ。
ここと作物の売買について専属契約を結ぶことができれば、資金には困ることがないとされている。実際、俺もプレイ中は重宝したし。
……そういえば、商会のトップであり、《大賢商》なんて大層な肩書を持っているグレゴリー・ライマルはゲーム本編の中で立ち絵が存在していない。プレイヤーが主に交渉するのは、商会から送られてくる使者だったな。
一体、どんな人なんだろう。
気になるな……どうせアイテムを買いに商会の店に行くんだから、今後の活動を踏まえて挨拶をしておいた方がいいだろう。
少しだけ沸き上がった緊張感をほぐすように、俺は深呼吸を挟んでから店のドアを開けて中へと入っていく。
店内は広く、一般の買い物客もいるが、冒険者と思われる人たちが目につくな。
「……商会トップのグレゴリーさんはいなさそうだな」
「店の奥にはいると思いますよ」
それもそうか。
大陸でも三指に入るほどの大商会のトップともなれば、忙しくて店先に顔なんて滅多に顔を出さないよな。そもそも、なんの実績もない俺が会いたいと言って会える人物でもない……うーん、まだ時期が早かったかな。
あきらめかけたその時だった。
「あっ、グレゴリー殿が出てきましたよ」
なんという僥倖。
少しでも話がしたい――そんな思いで振り返った俺だが……その思いは、グレゴリーさんを一目見て消え去るのだった。
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