第8話 農場開拓
※次は12:00に投稿予定!
腹も膨れたところで、いよいよダンジョン農場を本格的に始めていく。
「こんなところで農場を!?」
俺の計画を耳にしたマルティナは、「正気か?」とでも言わんばかりに驚いていた。
「こんなところだからいいんじゃないか」
「ど、どうしてですか? 普通、農場っていったらもうちょっと広くて明るい場所でするものでは?」
「それはそうかもしれないが……ここは特別なのさ。上から太陽の光は当たるし、地底湖の水は特別だし」
「特別?」
「微量だが、あの地底湖の水には魔力が含まれているんだ。野菜の成長を速められるだけでなく、魔力回復というおまけつきになる」
「ど、どうして……」
「このダンジョンでも、地底湖のあるこの辺りだけ、周囲の岩壁は魔力を含んだ魔石で構成されているんだ」
「!?!?!?!?!?」
マルティナは大きなリュックから一冊の本を取りだす。それをペラペラとめくりながらブツブツと呟き始めた。
「ど、どうしたんだ?」
「いえ……そのような情報はどの本にも載っていなくて――というか、このダンジョンにこんな地底湖があること自体どこにも情報がありません!」
「あっ」
そうだった。
あれはゲーム内でも誰も知らない知識。
プレイヤーにのみ情報が開示されている秘密の場所だったな。
「あぁー……探索中に偶然見つけたんだよ」
「なるほど! ダンジョンというのは何があるか分かりませんね……私もあなたを見習って、最後まであきらめずに探索を続けます!」
苦し紛れの言い訳だったが、マルティナにはことのほか通じた。
……ちょっと前からなんとなくそうじゃないかと思っていたが――マルティナって、いろいろ信じやすいタチなのか?
まあ、それはそれとして……そろそろ始めるか。
「この辺でいいかな」
俺は家から少し離れた位置に立つと、竜樹の剣を地面に突き刺す。そして、魔力を注いでいくと、剣から根が生えて地面へと潜っていった。
「いいぞ……その調子だ」
竜樹の剣から伸びていく根は固まった地面をほぐしていき、ついでに邪魔になる石まで排除していく。さらに、有機物を増やし、露地栽培に適した肥沃な土へと作り変えていった。
「こんなものかな」
まずは試験的に育てやすい野菜から手をつけていくつもりだ。
一応、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界では四季が存在する。ゲームでは、この季節に合わせて育てやすい野菜から手をつける――言ってみれば、旬の野菜を育てるわけだ。その種類は、俺の前世の世界と同じ基準となっている。例えば、春ならキャベツやアスパラガス。夏ならばトマトやナスといった感じだ。
ちなみに、ベースとなっているのは前世の世界の野菜だが、名前や見た目は微妙に変わっている。
それは、このゲームの特徴のひとつである、「食べた野菜によって得られる特殊な効果」が関係していた。
例えば、今俺が竜樹の剣で生み出した小さな種。
これは「フレイム・トマト」という品種で、一定量を摂取することで炎系魔法の威力向上や、消費魔力の減少といった効果が得られる。
もうひとつの特徴として、これら魔力のある作物は魔道具を作り出すのに必要な素材としての役割も果たしている。
確認してみたところ、神種を除き、現段階で育てられる野菜の数は、このフレイム・トマトを含めて約五種類。
まず、能力向上系作物としては、
フレイム・トマト。
アイス・パンプキン。
サンダー・パプリカ。
の三つ。
アイス・パンプキンは氷属性魔法強化に、サンダー・パプリカは雷系魔法の強化にもってこいの野菜だ。これらは品質さえよければ王国が抱える魔法兵団にも売れる。
残りふたつは素材系作物で、
アイアン・コスモス。
バブル・ガーベラ。
の二種類だ。
アイアン・コスモスは強度アップのため武器や防具の素材として使われる。バブル・ガーベラについては――成長も早いし、今夜あたり使ってみるか。
いずれも育てやすい初心者向けの作物となっているが、これは竜樹の剣が最初から持っている種――つまり、チュートリアル的作物なのである。
この数は特定条件を満たすことで増やしていけるので、今後積極的に挑戦していきたいと思う。
――ゲームのシステムを再確認している間、ウッドマンたちがしっかりと働いてくれたおかげで畝ができた。
野生動物の……いや、ここの場合はモンスターか。ともかく、畑を荒らされる心配ないのだが、雰囲気を出すために木材を利用して柵を作ろう。
すぐ近くには魔力を含んだ地底湖の聖水。
そして俺の手には自然界に多大な影響力を与える竜樹の剣がある。
これだけあれば十分だ。
能力値を上昇させるような、優れた効果を持つ野菜がいつでも好きに栽培できるぞ。
とりあえず、今出せる野菜は全種類育ててみよう。
早速、種をまくと、俺はウッドマンたちとともに地底湖の聖水を運んで水まきをしようとした――その時、
「私にも手伝わせてください」
マルティナがそう申し出てくれた。
「いいのか?」
「はい。なんだか、私もやってみたくなったんです」
「ダンジョン探索はしなくていいのか?」
「も、もちろん、そっちだってしますよ」
本当か……?
正直、今ちょっと忘れかけていなかったか?
まあ、俺としては話し相手がほしいので、手伝ってくれるというのなら、むしろ大歓迎する。
「感謝するよ、マルティナ」
「いえいえ」
こうして、俺とマルティナ、そしてウッドマン(×5)は手分けして畑に水を撒いていった。
ひと通り作業が終わるころには、
「おっ? 見ろよ、マルティナ」
「はい? ――わっ! もう芽が出ています!」
なんと、わずか数十分で芽が出ていた。
これは想像以上のスピードだな。
「この調子なら、すぐにここは野菜でいっぱいになる。明日からはもう少し拡張していこうかな」
完成した野菜は、自分で食べて強化に当ててもいいし、素材は売っていろいろと買うための資金にしてもいい。
うんうん。
選択肢が広がってきたと同時に、俺のヤル気も急上昇。
この調子で、どんどん育てていくぞ!
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