第6話 見習い冒険者マルティナ
※次は21:00に投稿予定!
「はっ!? 私は一体何を!?」
飛び上がって驚く少女。
その動きはモンスターを倒した時よりも俊敏だ。
モンスターと戦闘している時も思ったけど……この子、身体能力は高いよな。ただ、戦闘に慣れていなくて焦りまくっていたって印象があるけど。
「気がついたか。気分はどうだい?」
「あっ、えっ、えっと……平気です!」
フン、と鼻息を荒くして力こぶを作る少女――って、そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。
「俺の名前は……ベイルだ」
オルランド家の子息――と、名乗ると後々面倒なことになりかねないので、とりあえずはそう名乗っておく。
「ベイル殿ですね。先ほどは危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
お礼の言葉を述べた少女はペコリと礼儀正しく頭を下げる。
「私の名前はマルティナと申します」
「マルティナだね。よろしく、マルティナ」
そう言って、俺は手を差しだす。それを、マルティナはためらうことなく握った。
礼儀正しくて明るい感じ……快活そのものの姿から、好印象の持てる子だ。
「見たところ冒険者のようだけど……ソロかい?」
「え、えぇ……」
露骨に目線をずらすマルティナ。
聞いたらまずかったかな?
まあ、経験も浅いみたいだし、単独で潜っているってことは――
「冒険者としてはまだまだ駆け出しってところか」
「!? す、鋭いですね!」
鋭いというか……マルティナが分かりやすすぎるっていうのはあるけどね。
「そういうあなたはこちらで何を?」
「俺? 俺は……農場を開こうと思ってね」
「? 農場? 農夫の方ですか?」
「まあ、一応は」
「なぜダンジョンに?」
「ここで農場を開くためだよ」
「??????」
会話が通じていない様子――って、当たり前か。
普通、モンスターの蔓延るダンジョンで農場を開こうなんて思わないものな。
……でも、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界じゃそれが当たり前なんだ。俺はそれに特化したアイテムも持っているわけだし、こうして神種の力によって家まで造ることができたのだから。
そのことをマルティナにも話したのだが……彼女はなかなか信じてくれなかった。
「ほ、本当にそんなことが……?」
「嘘じゃないよ。現に俺は竜樹の剣の力でウッドマンを五体使役し、さらには天界にしかない植物のウィドリーを育てている。これが何よりの証拠さ」
「た、確かに……」
マルティナからすれば、特にウッドマンの存在が大きかったようだ。
使い魔であるウッドマンを一度に五体使役できる――それはかなり限られた者にしかできない芸当であり、俺の持つ竜樹の剣がいかに有能であるかを証明する材料ともなった。
「――っと、もう夜か」
作業へ夢中になってしまい、時間の経過があっという間に感じるな。
ともかく、夜になってしまったらダンジョン内をうろつかない方がいい。この辺りは同中に魔除けの植物を大量に植えたため、何も近づいては来ないが、ここからダンジョンの外へ戻るとなったら話は別だ。
神種ウィドリーの力を借りれば、ダンジョン上部に開いた穴から外へ出られないこともないが、やっぱり夜道を女子がひとりで歩くのは危険すぎる。ましてや、才能があるとはいえ、マルティナはまだまだ駆け出しの冒険者。そんな彼女を毒牙にかけようとする姑息な連中は必ずいるはずだ。
俺はそのことをマルティナに告げると、彼女も夜のダンジョンの危険性は認識していたようで、すんなりと受け入れてくれた。
そうした事情から、今夜彼女は俺の家に泊まるわけだが……およそ十平米の家では心もとない。
というわけで、急遽ゲストルームの増築計画が打ち立てられた。
「頼んだぞ、みんな」
「「「「「キキーッ!」」」」」
五人のウッドマンは俺に敬礼をしてから作業開始。
俺とマルティナも一緒になって作業を進めると、ものの数十分でひとり分の部屋が完成した。
早い。
早すぎる。
それでもしっかりとした耐久性に広々とした間取り。
家具は緊急ということでベッドのみだが、まだまだなんでも取り付けできそうだ。
「な、なんて素晴らしい部屋なんでしょうか!」
感激に瞳を輝かせるマルティナ。
ともかく、完成してよかったよ。
とりあえず、この日はもう遅いという理由もあり、俺とマルティナはそれぞれの寝室へ向かい、ウッドマンには念のため、モンスターが襲ってきてもすぐに対処できるよう、周辺の警備をお願いして眠りについた。
あと、月明かりが差し込むとはいえ、さすがに夜になると暗い。
早急に発光する魔石を町で買ってきて取り付けないと、夜は何もできなくなるな。
マルティナにはついては分からないところだらけなので、明日またいろいろと聞いてみよう。あれだけ可愛い子だ……が、何やら事情を抱えているという面もうかがえる。その辺をさりげなく、かつ詳しく追及していこう。
あと、本格的に野菜づくりを始めるため、畝を作らないとな。
育てたい野菜はいっぱいあるんだ。
マルティナと野菜づくり。
ふたつの要素が絡み合って俺を興奮させる。
おかげで、次の日は寝不足気味となってしまった。
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