第7話 一夜明けて
次回は明日の7:00に「フォートレス・ライフ」と一緒に投稿予定!
ダンジョンで過ごす初めての夜が明けた。
「うぅ~ん……」
軽く伸びをしてから、俺は外へと出た。
部屋に窓はあるが、まだガラスがないんだよなぁ……こういうのは買い込まなくちゃいけないだろう。そのための資金稼ぎのためにも、今日からいよいよ本格的に農場開拓といこうかな。
――っと、その前に、
「警備ご苦労様」
「「「「「キーッ!」」」」」
揃って敬礼している五人のウッドマン。
魔除けの植物に加えて彼らがいてくれるからこそ、俺はダンジョンの内部でも安心して眠ることができるのだ。
そんなことを考えながら、俺は地底湖へと向かう。
朝日に照らされてキラキラと輝く湖面は「美しい」の一言に尽きるな。芸術的な感性は乏しい俺でも、これだけはハッキリと言い切れる。
俺が湖の水で顔を洗っていると、何やら物音が聞こえてきた。
はて?
ウッドマンや魔除けの植物の効果で、ここにモンスターは入ってこられないはずなのだが。
家の方へ視線を移すと、物音の正体はすぐに見つかった。
「はっ! はっ!」
家から少し離れたところで、見習い冒険者のマルティナが素振りをしていたのだ。こんな朝早くから元気のいいことだ。
「おはよう、マルティナ。朝から精が出るな」
「ベイル殿! おはようございます!」
長いオレンジ色の髪をポニーテールにまとめたマルティナは、笑顔で挨拶に応えてくれる。
……しかし、マルティナってメインキャラにはいなかったよな。
昨日、寝る前にゲームの主要登場人物を思い出してみたのだが――俺がベイル・オルランドとしてこれまでかかわってきた中には誰ひとりも含まれてはいなかった。
ここが【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界であることは間違いないので、もしかしたら今後出会うことがあるかもしれないな。
「そろそろ朝食にしようか」
「はい!」
すっかり居着いてしまった感があるマルティナだが、俺としてもひとりで食べるのも寂しいので話し相手がいてくれるのは喜ばしいことだ。ちなみに、ウッドマンたちは自分で根を張り、養分を吸収することで力を得ている。
経済的ではあるが、どこか寂しさもあったりするんだな。
気を取り直して、そのウッドマンたちには引き続き家周辺の警備についてもらい、俺とマルティナは食事をとることにした。
とはいえ、あるのは家からこっそり持ってきた味気ない保存食のみ。
すると、
「食材は私が持っていますので、ベイル殿は座っていてください」
「えっ?」
マルティナは背負っていた大きなリュックから次々と食材を出していく。こんなに入っていたのか……よく肩が壊れないな。
「パンと野菜、それから干し肉が少々ありますから、サンドウィッチにしましょう」
「助かるよ」
サンドウィッチか。
今回は干し肉をしようするが……うん。家畜を飼ってみるのもありだな。一応、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中にも、畜産は可能だったし。
あと、火を使った料理をするんだったら、魔力を注ぐことで加熱する火属性の魔石を用意しなくちゃいけない。
なんだよ。
結構やることいっぱいあるな。
面倒事からはおさらばして自由に暮らすつもりが、当面はいろいろいとこなさなくてはいけない作業に追われそうだ。
とはいうものの、前世の仕事に比べたら遥かに労働意欲のわく内容だ。
なんていうか、夢とロマンがあるよね!
「……選択肢が広がったな」
「えっ?」
「ああ、いや、こっちの話さ。それより……おいしそうだ」
パンにトマトなどの野菜と干し肉を挟んだサンドウィッチ。
調理工程も何もあったものじゃないが、これがなかなかどうして、非常に食欲をそそるビジュアルと匂いだ。
……それにしても、さっきの野菜や肉を切ったり、調理に勤しむ一連の手さばき――あれはかなり熟練したものを感じた。手際がいいという表現では生温いくらいだ。もしかしたら、マルティナは以前どこかで料理修行でもしていたのかもしれない。
まあ、それはさておいて。
「うまそうだ!」
「シンプルですが、だからこそ素材の味を生かしたこの食べ方がベストなんですよ」
「どれどれ」
俺は皿に盛られたサンドウィッチのうちのひとつを掴むとそれをひとかじり。
「!? うっま!?」
何の変哲もないサンドウィッチだったはずが、メインを張ってもよさそうな素晴らしい料理へと昇華していた。
「これはたまらんな……特にこの干し肉は最高だ!」
「ありがとうございます。その干し肉なんですが、私が直接王都へと出向き、その目と味で購入したオススメの逸品なんです」
フン、と鼻を鳴らしながらドヤ顔&興奮気味のマルティナ。
まあ、確かに、これはその態度が許される味だな。
さて、腹も膨れたことだし、作業を開始しますか。
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