第5話 神種
※次は19:00に投稿予定!
とりあえずは、家づくりに必要な木材集めからかな。
それを確保するために――まず地底湖の水質を調べる。
「どれどれ……」
竜樹の剣を地につけると、足元から植物の根が伸びる。
それはゆっくりと地底湖へと入っていき、俺に詳細な情報を伝えた。
「やっぱり……ここもゲームの通りだ」
この地底湖がある空間のみ、周囲の岩壁などに魔力を含んだ石――いわゆる魔石が大量に含まれているのだ。
その影響で、地底湖にも魔力がしみだしており、これを飲むことで魔力を回復することができる。言ってみれば、地底湖の水がすべて聖水ってわけだ。
こうした、魔力を含んだ水は作物の成長を促進させるだけでなく、栄養価にも多大な好影響をもたらす。おまけにここは序盤に出現するダンジョンということもあり、モンスターはさほど強くない。
そもそも、竜樹の剣によって生みだすことができる結界草という植物を地底湖につながる通路に生やせておけば、それだけでモンスターはこの地底湖のある空間に入ってこられない。
こうした数々の理由が、ダンジョンに農場を開く理由だ。
実を言うと、数あるダンジョンでも農場を開けるのはこの隠しルートで入れる地底湖の周辺のみ。
そう。
言ってみれば隠し要素なのだ。
改めて、この竜樹の剣はのんびり暮らすのに適したアイテムだ。
オルランド家の意向には沿わない能力だが、俺にとってはこれ以上ない力だ。貴族として暮らすのだって面倒事が多そうだし……こっちの方が肌に合っている。
「さて、明るいうちに寝床を作るか」
俺は竜樹の剣へ魔力を注ぎ、新たな能力を目覚めさせる。
緑色の魔力が湯気のように剣から立ち上り、それはやがて剣先に集まっていく。
竜樹の剣の最大の特性――それは「神種」という、天界に存在するとされる野菜や果実の種を生み出すことができるという点。
こいつがもたらす効果はバランスブレイカー一歩手前ってくらいに絶大だ。
あっという間に育つし、何より魔力を生みだせるというのが大きい。
ちなみに、つい今しがた植えたのは「ウィドリー」という品種で、地上の市場ではまず出回らないものだ。
「よっと」
俺は家を建てようと決めた場所から離れた位置に、神種を植えた。
すると、一瞬にして芽が出て、五分としないうちに五メートル近くまで成長する。この調子ならば、明日の朝にはポッカリと空いた天井にまで到達するだろう。
こいつは木材兼住居として活用する。
言ってみれば、ツリーハウスってわけだ。
しかもめちゃくちゃ大きいからなぁ……階数にすると、五階分に相当する。
根っこから地底湖の聖水を吸収していることもあってか、かなり成長が速いのだが、それでもこのサイズでは、完全に成長しきるのに数日を要するだろう。しかし、当面の寝床として使うには、今のサイズでもまったく問題ない。
「こんなところか」
俺は竜樹の剣を使い、丸太くらいの太さがある枝を切り落としていった。
「みんな、こいつで簡単な家具を造るぞ」
「「「「「キキーッ!」」」」」
五人のウッドマンは俺からの指示を受けて、一緒に家具づくりへと取り組む。
とりあえず、俺ひとり分の家具だし、加工に必要な最低限の道具は持ってきていたからすぐにできるだろう。
――などと、低い目標を立てていたが、これがどうして、巨木ウィドリーの一階に当たる十平米ほどの空洞部分は、家具だけでなく立派な内装まで施され、見違えるような快適さであった。しかもベッドつき。
「思わぬ成果だな、これは」
小さいけど……ここは俺の城だ。
まだまだ手入れが必要な部分も多いが、今日は飛び入りの客人もいるわけだし、とりあえず寝床確保くらいの程度でいい。
時間は腐るほどあるんだ。
のんびり気長にやって、少しずつ理想に近づけていこう。
満足げに頷くとともに、俺は可能性を感じていた。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】というゲームは、その性質上、プレイヤー側に戦闘能力がないため、いわゆるRPG風のステータスは存在しない。だが、竜樹の剣やそれによって育てられた野菜及び果実といった駆使して俺自身を強化すれば……戦闘力という面でもさらなる向上があり得るんじゃないか?
「……試してみる価値はありそうだが――後回しかな」
今はとりあえず、農場開拓に専念しよう。
それと、今回の功労者たちをしっかりねぎらわないとな。
「わずか数時間のうちに……君たちのおかげだよ」
「「「「「キキッ!」」」」」
誇らしげに胸を張る五人のウッドマン。
ベッドのシーツとかは今後調達しなければならないが、とりあえずは形になったのでよしとしよう。
「さて、と……思いのほか早く家ができたから、どの辺に畑を作るか、ちょっとこの辺りを見て回るか」
神種から生みだした木が完全に成長しきるまでには時間があるし、今のうちにやれるだけのことはやっておこう。
野菜の種は竜樹の剣で調達できるから、いくつか畝を作り始めてもいいかな。
これもまた、ウッドマンたちと協力をして進めていこうとしたが、
「う、うぅん……」
どうやら、気絶していた冒険者の少女が目を覚ましたようだ。
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