第3話 初戦闘、初勝利
※次は15:00に投稿予定!
「な、なんだ!?」
突然響き渡った悲鳴に、俺は行き止まり突破を一度断念し、声のした方向へ向かって走りだした。
しばらく走っていると、
「はあ、はあ、はあ……」
大きなリュックを背負い、必死に呼吸を整えようとしている少女がいた。
年齢は俺と大して変わらない。
肩口までかかるくらいに伸ばした赤みがかったオレンジ色の髪に、スッと通った目鼻立ち。パッチリとした大きな目は、恐怖のためか忙しなく左右に揺れていて、剣を握る手も震えている。
――っと、冷静に分析している場合じゃない。
なぜなら、その少女と向かい合う形で、
「ぷぎいいいいいいいっ!」
雄叫びをあげているのは、鋭い牙を持つ大きな黒い豚――巨大イノシシ型のモンスターだ。
ゲームでは序盤に位置するこのダンジョンではそれほど強いモンスターは現れないのだが……こいつはその中でも最強クラスだ。あの子……運がないな。
「って、暢気に見ている場合じゃない!」
俺は竜樹の剣を手に駆けだした。
この剣は戦闘用ではない。
農業用の剣だ。
それでも――使い方次第で相手の動きを封じるくらいはできる。
「いくぞっ!」
俺は魔力を込めた竜樹の剣を地面に突き刺す。
すると、モンスターの足元――地中から大量の蔓が伸びてきて、その大きな体をがんじがらめにする。
「ぶひいいいいいっ!?」
突然体の自由が封じられたことでひどく動揺し、めちゃくちゃに動き回るモンスター。
だが、その程度では逃れられない。
こうした地属性の魔法を使いこなせるのが、竜樹の持つ最大の利点。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】における地属性魔法は人権属性というべき立場で、これを自在に操れる竜樹の剣はまさに神アイテムなのだ。
――しかし、欠点としては決定打に欠けることがあげられる。
ご覧の通り、このゲーム内にも戦闘要素はある。
だが、基本的に主人公……つまり、プレイヤーは支援に回ることが多い。
優れた野菜を栽培し、市場での評価が高ければ、より優秀なパーティーから声をかけてもらえ、彼らが活躍すればそれが評判となり、サポートアイテムであるこちらの野菜も売れる――そういうシステムになっている。
本来なら、動きを封じた後、幼い頃から鍛えてきた剣技でトドメを刺すのだが……今回は、この子にその役を譲ろう。
「今だ!」
「えっ?」
「その剣でモンスターを倒すんだ!」
俺は女の子に向かって叫んだ。
最初は驚いた様子だったが、すぐに気持ちを切り替え、手にした剣を振りかざし、モンスターにトドメの一撃をお見舞いするため突っ込んでいく。
「やあっ!」
俺はそのスピードに目を奪われた。
「は、速い!?」
あれだけ大きなリュックを背負っていながら、なんて動きをするんだ。あれは努力云々ではカバーしきれない――天性のモノだ。
さっきまではモンスターにビビっていたから実力を発揮できていなかったのか、まるで別人のような動きだ。
その変わりように驚いていると、グサッという音とともに、少女の剣はモンスターの額に深々と突き刺さった。
これによりモンスターは絶命し、その巨体を横たえる。
「や、やった……!」
女の子は勝利の喜びからか、震えているようだ。
――が、次の瞬間、
「はふぅ……」
「お、おい!?」
緊張の糸と同時に意識まで途切れてしまったらしく、気を失ってしまった。
それだけ極限状態だったってことなんだろうけど……
「やれやれ……まいったな」
さすがにこのまま放置しておくわけにはいかない。
かといって、周りに頼れそうな人もいない。
「仕方ない……この子を連れて行くしかないか」
さすがにこの子を背負って来た道を戻るのは厳しい。途中でモンスターに襲撃されたら、守り切れないかもしれない。何より、俺は例の隠しスポットに行きたくてたまらなかったのだ。
そうと決まれば――やることはひとつ。
俺は竜樹の剣を地面へと突き刺し、魔力を込めながらつぶやく。
「来い――《ウッドマン》」
言い終えた直後、竜樹の剣から緑色の光が放たれ、地面から大きな植物の根が姿を現した。それらは次第に姿を変え、最終的には体長一メートルほどの人型となった。
さらに、
「キーッ!」
その人型の根に目や鼻、口といったパーツがくっついて喋りだし、ついにはひとりでに歩きだした。
これがウッドマン――竜樹の剣で呼び起せる俺の使い魔だ。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の世界では、このウッドマンをどれだけ召喚できるかで攻略難易度がガラリと変わる。
とりあえず、俺は五体のウッドマンを召喚。
それぞれにジョージ、ステファン、アーロム、ウィル、トッドと即興で名前をつけ、彼らに気を失った少女の運搬をお願いする。
さて、頼もしい仲間もたくさん増えたことだし、改めて当面の目的地であった隠れスポットを目指すとするか。
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