第2話 追放。そしてダンジョンへ……
※次は正午に投稿します!
オルランド家の屋敷がある領地を離れた俺は、山間にあるリームという名前の小さな町へとやってきていた。
この町も、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】に登場し、プレイヤーからは「廃人タウン」という異名で呼ばれることもある。
名前の由来は、この近くにあるダンジョンにあった。
俺が目的地に定めたのもそれが最大の理由である。
「ふぅ……」
宿屋の共同浴場から部屋へ戻ると、ひと息ついてから今後の計画を改めて練る。
今の俺に与えられた力――それは竜樹の剣。
ブラウザゲーム【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では格段に攻略が楽となる廃人御用達のアイテム。
――だが、それはあくまでもゲームの中のみの話。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】はプレイヤーが農夫となってこの剣と魔法の世界を生きていく。
そのため、得られるスキルなどは農業に適したものが中心であり、戦闘にも役立たないものばかりだ。
竜樹の剣もそうだ。
ハッキリ言って、こいつは剣の形をしているが、戦闘で使うというよりも農業用スキルに特化したアイテム。
ゲームのプレイヤーが持つには百点のアイテム――だが、騎士として名高いオルランド家の人間が持つアイテムとしては0点だ。
そう考えると、あの場で竜樹の剣の特性を説明したところで状況は好転しなかっただろうな。
……まあ、俺も貴族のような堅苦しい生活は性に合わなかったし、せっかく激レアのアイテムを入手できたんだ。世界の平和はディルクに任せて、俺はこれをいい機会として人生を歩み直そう――農夫として。
さて、決心もついたところで……お次はこのゲームの本質について、だ。
【ファンタジー・ファーム・ストーリー】
このゲームは自由度の高いオープンワールドを舞台にした、いわゆるスローライフ系に属する。ゲーム内に用意されたさまざまな場所で農場を開くことができ、その土地の特性に合わせて育ちやすい作物が変わってくる。この辺はリアル農業と同じ仕様だ。
例えば、気温の高い地域では野菜の育ちが早く、促成栽培に向いているし、気温が低く抑制栽培に向いているところもある。それ以外にも、地域ごとにさまざまな特性があるのだ。
ただ農場を運営するだけでなく、時には冒険者たちと一緒にダンジョンへ潜ったり、町の人からの依頼を受けて畑を危機に追いやる害獣(モンスター)を討伐したりと、イベントは盛だくさん。時には季節限定イベもあったりする。
その中で、俺は先ほども言った通り、廃人御用達の町・リーム近くにある地域を選択した。
理由は大きく分けてふたつ。
あそこは比較的早い段階で潜ることができるダンジョンであり、出現するモンスターのレベルが低めということ。将来、騎士になることを見据えて幼い頃から厳しい鍛錬を積んできたおかげで、あのダンジョンに生息するレベルのモンスターなら訳なく倒せる。
もうひとつは――特殊なルートを通ることで隠しエリアに行くことができるから。これがまたとんでもない場所にあるのだ。運営的には隠し要素かサービスのつもりなんだろうが……正直やりすぎ感が否めない。ただ、実際にこの世界で暮らすとなったら、あの場所ほど頼りになるものはないといえよう。
そもそも、「なぜダンジョンに農場を開くのか?」という根本的な疑問が当然浮かんでくると思うのだが……それは後々語りたいと思う。
「さて……そろそろ寝るかな」
なに不自由ない生活をしていたオルランド家の子息である俺が、安宿にあるボロベッドの上で一夜を過ごす……前世での記憶が戻っていなければ、これほど屈辱的なことはないだろう。
しかし、今はドキドキワクワクとした高揚感でいっぱいだった。
朝になるのが待ちきれないなんて……いつ以来だ?
そんなことを思いながら、俺は静かにまぶたを閉じた。
◇◇◇
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ました俺は、早々に身支度を整えると足早に宿屋をあとにした。
目指すはここから南にあるダンジョン。
荒れた道をひたすらに進んでいると、目的地であるダンジョンの入り口が見えてきた。
「あそこだな」
周囲に冒険者の姿はなく、あまりにも閑散としているので「本当に大丈夫か?」と疑いも持ったが、周辺の景色はゲームで見るものとまったく同じだったので大丈夫だろう。
それにしても……妙な気分だ。
かれこれ十年以上続け、古参と呼ばれるようになった俺にとって、ここはとても見慣れた場所だ。そんな見慣れたゲームの風景に自分がこうして立っているなんて……ある種の感動といえばいいのか、胸が熱くなる。
――って、こみ上げてくる喜びに浸っている場合じゃない。
ゲームの通り、隠しエリアがなければプランは最初から練り直しになるんだ。
楽観的なことばかり考えてはいられない。
常に最低最悪の事態は頭に入れておかないと。
気持ちを引き締め直して、俺はダンジョンへと足を踏み入れた。
ダンジョン内に入って真っ先に浮かんだ感想は「思ったよりも明るい」だった。
多くの冒険者が利用してきたダンジョンというだけあって、通路には発光石が埋め込まれたランプが等間隔で設置されている。
いくつかの分岐点が存在しているが、俺は迷わずに進んでいく。
このダンジョン……ゲームだと数えきれないくらい潜ったからな。
もうルートは完全に頭の中にインプットされている――もちろん、例の隠しルートもバッチリだ。
「さて……そろそろかな」
しばらく進んでいると、行き止まりにたどり着く。
本来ならばこっちのルートは外れ。
正規ルートは、ひとつ前の分岐点を右へ曲がらなければいけない。
しかし、俺的にはこれで正解だ。
「……いいぞ。ゲームにある通りのルートだ」
改めて、ここがゲームの世界であると実感する。
――なら、この行き止まりの向こうには、ゲームと同じくアレがあるはずだ。
「それじゃあ早速――」
俺は先へ進むため、竜樹の剣を取り出した――まさにその瞬間、
「きゃあああああああああああああ!!」
甲高い悲鳴が、ダンジョン内に響き渡った。
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