4日目 異文化コミニケーション 中編
「……驚かせないで」
突然背後に立っていたこと驚き、想像していた最悪の事態ではないことを察し、思わず脱力する。あれは、言葉こそ通じないが何かを思い詰めている顔だったのだ。
「扉から何か出てきたと……思った……んですけど」
立ちすくむ少女の耳が、上下にひょこっと揺れる。
上の階から漏れる明かりが逆光となって、彼女の肢体を、その輪郭を浮き彫りにしていた。
思わず生唾を飲み込む。ゴクリという音がしたかもしれないと思うと、途端に恥ずかしくなってしまう。同性の――曲がりなりにも同じ女性として見ても、少女は、彼女は美しかった。
高橋に服を破られたので今は私の服を貸し与えているが、同じ服を僕が着てもこうはならない。雑誌の紙面を飾るモデルが完璧に着こなしたとしてもこうはなるものだろうか。きっとかつて多くの芸術家たちが夢見た光景のような、神がかり的な美しさがそこにあった。
「――――」
彼女が何かを言う。
相変わらず音すら拾えないが、表情も相まって、何かの宣言をしたように思えた。
すると――上着に手をかけ勢いよく捲り上げる。ズボンに手をかけ躊躇することなく降ろす。下着までは与えていなかったので、少女のままの秘所が露になる。
透きとおる肌にまだ成熟しきっていない体。しかしそれぞれのパーツには程よく肉がつき、幼さと官能の両方がそこにあった。
「…………あ……あぁ」
言葉を、声を上げることができない。
目は彼女に向けたまま、瞬きをすることすら憚られた。
金縛りのような、自分の意思に反して固定されるような苦しみは無い。
頭の中に嵐が吹き付ける。
ただ今目の前にいる彼女を、無垢な少女を、私の知りうる限りの方法で凌辱したい想いで一杯になる。
彼女が手を伸ばし、僕に触れる。
指先で輪郭を確かめるように頬をなぞる。胸元に指を添え、へそに沿ってさする。
彼女が笑みを向けると、私の中で何かが弾けた。
一心不乱に服を脱ぎだす。
羞恥心なんて無い。
彼女が目の前にいる。
そこに近付きたくて、彼女と一つになりたくて、身に着けているすべての余分なものを脱ぎ去り、そこいらに投げつける。
呼吸が荒くなっているのを感じた。
彼女と同じ生まれたままの姿となり、彼女の正面に立つ。
色素の少ない澄んだ瞳。精緻な舶来人形のように整った顔つきが、僕をじっと見つめる。その美しさを一身に受けて、頬が砕けるような多幸感に苛まれた。
彼女と同じ姿で立つ自分。
不意に自分の醜さを恥じて目を反らしてしまう。
同じ女だというのに、僕の不完全さと言えばどうだろうか。
異性に興味が無いのは生来の物である。しかし持って生まれたもの、これまでの人生に育まれたものとして、パーツとしてはそこそこ気に入ってはいた。
悪くない形の胸にほどほどのサイズの尻。肉付はさほど良くないが、瘦せすぎているわけでもない。個人の趣向はあれど、少なからず魅力もあるはずだ。
異性の知り合いは数少ないが、今は亡き高橋も少なからず意識していたに違いない。
しかしそんなもの、自己を肯定する僅かながらの自尊心は、目の前の彼女によって全て霞んでしまう。
急に惨めな思いになり、気づけば私は涙していた。
「――――」
彼女は全て分かっていると言わんばかりに僕の肩に手を添える。そして体を引き寄せ優しく抱いてくれた。
「…………これ……これって?!」
脳裏に高橋の奇行がフラッシュバックされる。
高橋に彼女が近づいたとたん、高橋はどうなった?
答えに、あともう一歩で何かが掴めそうな気がする。少なくともこの反応はまずい、ここに居てはいけない。
僕の変化に気付いたのか、彼女は少し残念そうな顔を浮かべたように見えた。
「――――」
彼女の顔が僕に近付く。
それにあわせて、僕の足から力が消えた。
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