3日目 初めての探検 前編
異世界の探索を計画して三日目、いよいよ決行当日を迎えた。
その日、天気予報は午後から雨とのことで、足早に祖父の家に向かう。
高橋との買い出しはその後ややあったものの、必要だと思われるものは粗方買い集めることが出来た。準備は万端――とはいえ誤算もあった。
「この山一つ、全部日下部の爺ちゃんのモノなのか?」
誤算が口を開いた。
長身痩躯、美男ともてはやされることはないものの、けれど標準以上には整った顔立ち。カジュアルなセンスで着飾ってはいるが、何処かあか抜けないのが印象的な男子。僕にサバイバルについての知見を与えてくれた、高橋その人だ。
「爺ちゃんが死んで、今では親戚の叔母さんの物かな。そのまま残すって言ってたけれどどうだか……あ、そこ右に曲がって」
「ここ車通れるのか? 先週洗車したばかりなんだけど」
「嫌ならここで降ろして。もう歩いて行けるから」
「……マジ? 近くに家なんて無さそうなんだけど」
「三十分も歩けばつくよ」
「……はぁ」
高橋は観念した様子でハンドルをあやつり、車を藪の中へと進める。
順調に思えた秋葉原の買い物。
唯一の誤算は、高橋の異世界への同行だ。
「……おじゃまします」
「ほぼ廃屋だから遠慮しないでいいよ」
母屋につくや否や、早速準備に取り掛かる。
それぞれ抱えてきた荷物をほどき、先日買いそろえた探検セット一式を身に纏っていく。
迷彩服の上下は秋葉原のミリタリー専門店で購入したものだ。様々な柄物があったが、日本の植生に一番合うという自衛隊迷彩なるものを選んだ。
腰にはベルトと複数のポーチを備え、暗所に対応できるようにライトを差し込み、その他必要であろう小物類を詰め込んだ。
上半身にはチェストプレートを着込み、その上から同じく迷彩柄のポンチョを羽織る。極めつけはヘルメット。これも頭部を保護する重要な装備だ。
試着で試したときはどのようにつけるのかすらわからなかった品物たちを、記憶を辿りながら次々とつけていく。ほぼお揃いの装備となった高橋が、ぽかんと口を広げて僕を見ていた。
「……経験者じゃないよな?」
「サバイバルは今日が初めてだけど?」
「そうじゃなくて、サバゲーとかやったことないのかって話だよ」
手際の良さを褒められているのだろうか。
正直、チェストプレートは体に合っていない気がするし、迷彩服の生地はゴワゴワして違和感しかないし、不安でたまらないが……。
「似合ってる?」
「着られてる感じはしないな」
「そういう高橋こそ、様になってるよ」
同じ装備なのにこうも違うものか、瘦せ細った頼りなさはそこにはなく、映画から飛び出してきたような兵士が目の前にいる。
「頼りがいがありそうだ」
高橋は僕からわざとらしく目を反らすと、身に着けた装備を指さして確認をはじめた。どことなく頬に赤味を浮かべているようですらある。
程なくして僕も準備を終えると、互いに装備品をチェックしはじめる。
全ての準備を終えると、いよいよ扉の前に立った。
「さっき見せた通り、扉の向こう側は草原が広がっている。今日の目的は周囲の散策と僕たちが装備に慣れる事。これを目標にしたい」
「慎重すぎやしないか?」
「今日は慎重に進めるべきかを判断するための探検だと思ってほしい」
「……それは慎重なことで」
記念すべき第一回目の探検だ。
扉を開き、目の前に広がる草原に足を踏み入れる。
可能であれば一人で行いたかったが、もしもの時には高橋は囮にすればいいと自分に言い聞かせながら、僕は扉に向かって静かに足を進めた。
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